「・・・ふむ。そうか、今そんなことが・・・」 シドは腕を組んだ。確かに、いきなり世界の危機を知らされたら誰でも驚くことだろう。しばらく して、エーコがやってきた。 「・・・・・・どーしたの、みんな暗い顔して」 エーコがボーッとした感じで訊いてくる。今まで昼寝でもしていたのだろう。そんな彼女に、リン クはジタンがシドに説明したことと同じことを話した。 「ええーーーーーーーーっ!!!!」 一同、耳を塞ぐ。 「どーすんの!?ここは安全なの!?」 「ま、まあ、今は大丈夫だよ。クジャっていうのが生き返ってただけで、まだ敵が一人なのか、組織 か何かなのかもわからない状況だし」 「・・・でも、複数かもしれないんでしょ?」 「・・・うーん」 なんとなく微妙な空気がたたずんだ。誰か話題を変える者がいないか、待ち続ける。 数十秒後、やっとシドが口を開いた。 「ではとりあえず、ジタンの言う勇者とやらのことだが・・・」 「ん?ああ、どうなんだ?」 ジタンは考え込んでいたが、すぐに応じた。 「ルークスタウンという海を越えた町に『星を救った英雄という人物がいる』というのを訊いたこと がある。その町に行ってみてはどうかの」 「そうか。でもどうやって行けばいいんだ?この大陸にはないんだろ」 「大丈夫じゃ。最近になってリンドブルムの街に『漁業区』というのができてのう。以前『工業区』 があったところに建設したのじゃ。ここらの魚介や鉱石は珍しいものが多いことがわかったのだ」 「へーえ。そうか、前にアレクサンドリアに攻撃された時に完全に破壊されたところだったな」 1年前、アレクサンドリア・前女王のブラネがひき起こした、召喚獣を利用して国々を降伏、あるい は破壊した、いわゆる戦争ともいえる時期があった。無論リンドブルムも攻撃され、工業区という区 が完全に破壊され、国の施設も壊滅状態だった。その時のことはまだジタンは記憶にしっかり残って いる。そのきっかけとして、あのクジャが裏に存在していたのだ。 「うむ。漁業区からは定期船も出ているのじゃ。『第2番航』という入口から船に乗るといい。ここ から次の到着地点は、幸いにもルークスタウンじゃ」 「おっ、そうか、ありがたいなあ。じゃあリンク、いこうぜ」 「あ、うん!」 「おい待て待て。そのままいくと料金がかかるぞ。わしの部屋にフリーパスポートがあるから、取り いくからちょっと待っておれ」 そう言って、シドは走って行ってしまった。 「ねえリンク、あなたってどこから来たの?」 エーコが訊いてくる。 「え、うんと、コキリの森っていう森で育ったんだけど、父さんは国に仕える騎士で、僕はコキリ族 っていう種族っていう子供のまま成長いない種族だと思ってたんだけど、ふつうのハイリア・・・人 間なんだ。実際、身長も伸びてきてるしね」 「おとうさん、元気?」 「ううん。もう昔の戦争で死んじゃったんだ」 エーコはえっ、と声が出る。 「ご、ごめん・・・」 「いいよ。それに、死んだってことを訊いただけだから、逆にどこかで生きてるかもしれないって思 ってるんだ。エーコのお父さんはいい人だし、あんな感じだったのかなあ・・・」 「ううん、実は、おとうさんは実のおとうさんじゃないんだ。『ようし』っていって、1年前にここ に来てね。正式にファブール家の娘になったの」 「え?ファブールって?」 「ふふっ、何言ってるの。おとうさんとおかあさんの苗字に決まってるじゃない」 笑うなよっ、と、リンクがあわてる。 「エーコ、そのツノ、なに?」 「あぁ、これ?何でしょう?」 「もう、じらさないでよ」 「ごめんごめん、これ召喚士一族のあかし。あたし実は、召喚できるの」 「召喚・・・って、いろいろな味方を呼び出すことだよね。さっきジタン達も言ってたけど」 「そうそう、それでね・・・」 少し離れたところでジタンとヒルダは今の状況について話していた。 「ジタン、勇者を集めるのはいいんだけれど、その後どうするの?敵の本拠地はわかっているんです か?」 「たぶん大丈夫だ。ほら、リンクが言ってただろ。女神が現れたって。おそらく、『勇者を集める』 という目的を達成したら、また必ず現れるはずだ」 「・・・そうかもしれませんね」 「どうしたんだよ。どこか不安げじゃないか」 「・・・いえ、何か嫌な予感がするのです。誰か・・・死んでしまう人がこの中に出るような気がす るのです」 「・・・!?・・・何の根拠もなしにやめてくれよ。こっちだってそんなこと言われりゃ嫌でも そんな気分になる」 「ごめんなさい。気にしないで」 こうして話していると、シドが戻ってきた。 「ほれ。これがフリーパスポートじゃ。これでタダで定期船に乗れる」 そうシドが言うと、リンクが駆け寄ってきた。 「へぇ〜。こんなので全部無料になるんだあ。VIPってやつ?」 「こんなのとはなんじゃ、こんなのとは」 大公の間に笑いが響く。そんな中、笑ってはいたものの少し暗い様子のヒルダに話しかけた。「どうしたヒルダ、具合でも悪いのか」 ヒルダはあわてて顔を上げ、手を振った。 「い、いいえ、何でも。じゃあジタン、リンク、無事を祈ってるわ」 「ああ。サンキュー、シドのおっさん。じゃあ行ってくるぜ」 「行ってきまーす」 リンクもジタンについていこうとすると、エーコが引き止めた。 「ん・・・?なに?エーコ」 「これ、持ってって」 エーコが差し出したのは、四角く、上部にヒモがついた御守りだった。 「これ、あたしの故郷から持ってきた御守り。もしもの時には必ずあなたを守ってくれるわ」 「あ、ありがとう。でもこんな大事なもの、もらっていいの?」 「プレゼントよ。さ、行ってきなさいよ」 「・・・命令する口調はやめてほしいなあ・・・」 リンクはボソッと言った。 「なによ?なんか言った!?」 「い、いいや、何でも!」 リンクはあわてて駆けていった。 「・・・ふふん。お前もしや、エーコに好かれてるんじゃないか?」 「・・・・・・」 リンクはさっとジャンプ。ゴツン、と軽く殴った音がした。さっそうとリンクが駆けだす。 「いたっ!てめえ人のみぞおちを・・・」 「追いついてごらん!ふふふ、足には自信があるんだ!」 その追いかけっこは、エアキャプ・リンドブルム駅に着くまで続いたのである。 * 「さあ着いた!けど、時間・・・時間・・・と、おっ、もう船は着いてるみたいだぜ」 「えっと、確か『第2番航』ってシドさんが言ってたよね」 ジタンはリンドブルムの地図を広げた。ふつうのサイズで、パスポートを貰う際にシドから 一緒にもらったものである。 「うーんと・・・ここの左から2番目だから、あ、目の前だ」 「・・・地図見る前に周り見ようよ」 「うーるっさいな。大体リンドブルムに詳しくないくせに大きな口たたくなよ」 2人はしぶしぶ係員にパスポートを見せ、船に乗った。 「さーあ、これから暇だな。何する?」 ジタンが船の柵にもたれながら言った。気を抜けば海に落ちそうぐらいだが。 「ここからルークスへは30分くらいみたいだよ。この船、結構ゆっくりみたいだしね」 「トランプとか持ってこればよかったなあ。暇だぜ」 「ははは、ホントだね」 2人がこうしてしゃべっていると、隣から声をかけられた。 「ジタン?」 「ん?誰だ?」 ジタンが振り向いた先には、長髪で見覚えのある女性が立っていた。 「・・・ダ・・・ダダ・・・ダガー!?なんでこんなところにいるんだ?」 「それはこっちのセリフよ。どうしてジタンこそ?」 「俺達はちょっとな。理由があって旅をしてるんだ」 ダガーは、リンクの方に目を向けた。 「・・・ボクは?」 「あ、ああ、えーっと」 「おいおいリンク、ダガーが綺麗だからってそんなに・・・」 「バカなこと言わないの。君、名前は?」 「リンクです。ハイラルから来た・・・。あ、知らないか」 「ハイラル・・・かあ。そうね・・・聞いたことないわね」 リンクはやっぱり、といった感じでうなずく。 「私はタンタラスの定期公演があるって聞いて、ルークスタウンでの公演を見に行くの。ジタ ンも出てると思ったけど、その様子じゃ違うみたいね」 「ああ、まあ俺はもうタンタラスじゃないしな」 船の錨が上げられた。間もなく船は動きだし、出港した。ジタン、リンク、ダガーは、船室 に話の場所を移した。 「そう・・・今そんなことが・・・」 ジタンは一応、シドに話したように、いま起こりつつあることをダガーに話した。 「ああ。だから、ルークスタウンにいるっていう戦士に会いに行くんだ」 「・・・私も旅の仲間に入れて」 リンクとジタンは沈黙する。 「え?お前何言ってるんだ。ダガーには国があるし・・・」 「・・・?・・・国って?」 「し、シーッ!」 ダガーは急いで人差し指だけを唇にあてた。 「え?・・・なに?」 「リンク、あまり大声でしゃべるな。実はダガーっていうのは偽名で、本名はガーネット。ア レクサンドリア国の女王だ」 「ア、アレクサンドリアって・・・リンドブルムをメチャクチャにした・・・!」 「違う、それは昔の女王の代の話だ。今はちゃんとダガーが治めてるし、大丈夫だ。心配する な」 「そうだったんだ・・・」 「私のことは一応、ダガーって呼んで。君のことは・・・リンクくんでいい?」 「うん」 「っていうか、もう仲間になってるし・・・」ジタンは小さくため息をついた。ジタンは振り返って船室の窓から海を眺めた。 「でも、本当に国はどうするんだ?ダガー」 「大丈夫よ。あとでベアトリクス宛てに手紙を送っておくわ」 「まあ大丈夫ならいいけど・・・」 数分後には、リンクとダガーは腕相撲をしたり、じゃんけんをしたりで仲良く遊んでいた。 「能天気だなあ・・・まったく」 * リンクの故郷、コキリの森。そこで、少し騒動があった。 「あ!目を覚ました!」 「う・・・うん・・・?」 「大丈夫?あなた、森の入口で倒れてたのよ」 ゼルダ姫に話しかけたのは、緑髪の少女だった。 「あ・・・ありがとう。でも、まだ頭が痛い・・・」 金髪のコキリ族の少女が口を開いた。 「ねえ、これってたぶん・・・」 「恐らく『コキリウイルス』っスね。森に慣れない人間が突然入ってくると、発熱とか頭痛 がひき起こされる強力な感染症っス」 コキリ族の少年が説明してくれたが、それを聞いて、ゼルダはあせってしまった。 「え・・・じゃあ、私は・・・」 「大丈夫だよ。君が気絶している間にワクチンを打っておいたから。森の樹液からとれるも ので、飲んでもよかったんだけど、なにしろ気絶してたから・・・。間に合ってよかった」 少し間をおいてから、再び緑髪の少女が話しかける。 「あなた、名前は・・・?」 「私はゼルダ。国の王女です」 その瞬間、全員が凍りついた。なぜ一国の王女がこんなところにいるのか。 「私、嫌な予感がして・・・。リンクを探しに来たんですけど、いませんか?」 「ここのところずっといないよな」 コキリ族の少年が隣にいた少年に語りかけた。 「ああ、ずっと前に出て行ってから帰ってきてないよ。ちょくちょくは来てたけど、最近は 全然見なくなっちゃったよ」 「あたしはサリアよ。・・・どこかで会ったようなことはないわよね?」 「・・・なぜか私もそんな気がしました。会ったことはないのに。不思議だわ」 「私も、ずっとリンクは見てないわ。だから・・・残念だけど・・・」 「そうですか。わかりました。助けていただいて本当にありがとう」 ゼルダは立ち上がった。どうやら症状はもうおさまったようだ。 「じゃあ・・・また来るかもしれないけれど、その時は・・・」 「わかってるわ。これから、私達は友達・・・でいい?」 「ええ。じゃあ、さようなら、サリア」 「さようなら、ゼルダ」 そうして、ゼルダは城に戻って行った。