* 全員、リンドブルムの大公の間へと集まっていた。 「終わったんだな」ジタンはクラウドの方へと振り向く。クラウドは少し笑みを漏らしながら、しかしどこ か疲れた様子で、 「ああ」 と短く返事をした。そっけなかったが、それで十分だった。 「本当に、終わったんだよね」 リンクはジタンに語りかけた。 「おう」 「よくやってくれた。本当に感謝する。………すまなかったな。わしらは助けられてばかりであった。何も 協力できなかったことを許してくれ」 「いいっていいって」ジタンが手を振る。「みんな、死なずに済んだんだしな」 ジタンは大公の間を見渡す。ここには、勇者三人はもちろん、ヒルダ、シド、ティファ、サリア、ゼルダ、 エーコ、ダガーの十人が集まっている。 本当にこれで終わった、とジタンは改めて感じる。街でも、既に火は無くなり住民の救助活動も終わって、 現在は住民総勢でスープなどを支給していた。 長かった戦いだった。だが、本当にそうか? クラウドも同じ事を思ったのか、こう口にした。 「………思い返してみれば、短い期間だったな」 「そうだよなー……」 リンクは呑気に同調した。 そんな二人を見ながら、ジタンはあることを切り出す。 「さて、これからどうする?」 これが一番の疑問だった。世界崩壊の危機は乗り越えたが、いまや世界を救うようにに促していた女神が 死んでしまったのだ。 ジタンが切り出したものの、誰も返答はせず、皆は考え込んでしまう。そうなった直後だった。 『それぞれの地に帰りなさい』 頭の中で声がした。外に響いては居ない。 「その声は……ロフェシー!?」ジタンが空に向かって言った。 『はい。時空を超えてあなた達に語りかけています。本体の私は過去にいるままですが』 サリアやゼルダ、エーコの子供三人組は、不思議そうに天井の方を眺めている。小声で話し合ったりもし ているようだった。 クラウドはその様子の三人を見た後、ジタンとは相対した落ち着いた声で訊く。 「それぞれの地に帰るだって?」 『はい。あなたたちは時を遡りますが、戦いの記憶を失うことはありません』 次の瞬間に、大きな光の柱が現れた。その光は上にいくごとに徐々に薄れていっている。大公の間の床の 一部に模様が描かれた。 『その魔方陣に入ってください』 「ちょっと待ってくれないか。これはどういうことじゃ?」 シドは魔方陣を見つつ言う。 『世界をもとある形へ戻すのです。この世界は本来の姿ではありません。3つの世界が無理やりつなぎあわ された、異型の世界なのです』 いきなりとんでもないことを言われた一同だったが、その中でダガーが質問をした。 「つなぎあわされた、というのはいつからなんですか?」 『世界が繋がれたのは、つい最近。リンクがあの女神と会う前日です』 「そんな頃から世界が改変されていたのか」 ここでゼルダが、疑問に思っていたことを訊く。 「なぜ、光の女神は最初にリンク達に味方をしていたんですか?」 『邪神と女神は、あなた達が聞いた通り、融合をたくらんでいたようです。もとあった一人の人間へと戻り、 絶大な力を身につけようとしていました』 「何が始まりだったんだ」ジタンは腕組みをする。 『女神は最初リンクに語りかけ、ジタンとクラウドを探すよう仕向けた。そして三人が集まったら………』 「あの三つの秘宝か」リンクが言った。 『そう。それが本来の目的だったんです。恐らくあなた達を殺した後、秘宝のパワーを利用して融合のパワー を獲得しようとした、ですが、私がそのパワーを利用して………』 「リンク達を過去へ送ったのね」サリアが言う。 『そうです。それは邪神と女神にも計算外だったようです。彼と彼女は、一時間もの間この時空から消えてい ることにあせりを感じていたでしょう。ですが、『二人は』何もしなかった。しかし』 「クジャですね」ヒルダが透き通ったような声で言う。 『そう。クジャにリンドブルムを襲うよう命じたのです。融合に必要なのは『パワー』。それは人を殺めるこ とによっても獲得できるものだったようです。ですから、クジャにリンドブルムを襲撃するように命じ、融合 のパワーを焦って集めようとしていた。結果としてクジャは、女神が死んだことにより彼も死んでしまいまし たが………』 リンクは先ほどからロフェシーの喋り方に違和感を感じていた。何かむずがゆい感覚が起こるのだが――― ――そうだ、敬語で話しているからだとすぐに納得した。 ジタンは腕組みポーズを解除してから口を開いた。「でもさ、何でそんなに焦ってたんだろうな」 『この世界が崩壊するおそれがあったからでしょう。彼ら彼女らの力では、世界をつなぎ合わせることがわず かな時間しかできなかった。本来の力を取り戻せば、この世界を維持したまま支配ができたはずですから』 「なるほど」とリンクが再び納得をする。 『さあ、時間がありません。このままではすぐに、邪神と女神が死んでしまった影響で世界が崩壊してしまい ます。その前にもとある形に戻さないと』 「待ってくれ」 ジタンが止めた。 「引っかかっていることが一つある。これは邪神が死んでも女神が死んでも解決されない事だ」 リンクは首をかしげた。そんなことあったっけ、と。 『なに? ジタン』 急にロフェシーの口調が優しくなった。過去にあった時の………彼女と一緒だった。 「なぜオレ達に『スカイタワーのカギ』と称してマジカルミラーを手に入れさせたんだ?」 少し間があった後、ロフェシーは返答した。 『あなたたちと最初に会ったときに言ったけど、あなたたちの身におきる未来の出来事を話すことはできない。 私は、邪神へ重傷を負わせるのが跳ね返した魔法になる、ということはもう知っていたわ。だから』 と、また間をおく。 『嘘はつきたくなかった。でもあれくらいの理由しか思いつかなかったの。ごめんね』 「謝ることなんてないさ。そうか………なるほどな」 『もう訊きたいことは無い? リンクは? クラウドは何か気になることとか無い?』 「大丈夫だ」と、クラウドは少し冷めた反応をした。 「うん。大丈夫だよ」 リンクも返答する。しかし、ロフェシーは続けた。 『リンク、あなたにはつらい思いをさせてしまったようですね』 「え………」とリンクは言葉が続かない。「えっと」 『無理もないわ。最初に出会った美しい女性が、敵対して、血を流して地に倒れている………そんな中でもあ なたは彼女にとどめをさした。本当につらい思いをさせて、ごめんなさい』 「いや、僕は大丈夫だよ」 そう言ったリンクの顔をジタンは不思議そうに見ている。どうやら、ジタンにはこの会話は聞こえていない ようだった。 『本当に?』 「うん」 リンクは強く頷いた。 『では、その魔方陣へ入ってください』 ロフェシーの声がやわらかく響く。ジタンはリンクに話しかけた。 「これでお別れみたいだな」 「うん………クラウドも、楽しかったよ」 クラウドは少し笑顔を見せた。この冒険では、滅多に見ることの無かったクラウドの笑った表情だ。 「俺もだ」 リンクが笑顔うなずき返したあと、誰かが走ってきた。 「リーーンークっ!」 エーコだった。エーコは飛び上がり、リンクへと抱きついてきた。 「わ、ちょっとエーコ」 リンクは頑張って離そうとしたが、うまくできない。 「おい、皆が見てるからやめろって」 「エーコ」 後ろからダガーがエーコを抱き上げ、リンクから離してあげた。 「いきなりそんなことしたら驚くでしょ」 「でも」 エーコが少し困った表情を見せる。 リンクはわかっていた。これからもうエーコに会うことは無い。そんなことがあってはならないのだ。もし またエーコと会うような事があれば、そのときもまた、世界に危機が訪れている時なのだ。だが、そんな事を 口には出さなかった。 「また会えるさ、きっと」 「うん………」 エーコは少し涙を流している。エーコを見ながら、ふと思い出した。 お守り。 「あ、そうだ。エーコ」 リンクはスカートのポケットに手を入れ、エーコからもらったお守りを取り出した。 しかしそれは木くずと化している。 「これ……こんな風になっちゃったけど、戦っていた時に守ってくれたんだ」 「……ぅ」 「あの………」 エーコが泣いているので、会話がしずらかった。だが、そこはダガーがフォローしてくれた。 「わかったわ、リンク君。わたしが預かっておくから、エーコが落ち着いたら渡して………」 「ううん」 エーコがリンクの顔を見た。涙はもう無い。 「それ、持ってって。あたし達が会った証よ」 「……わかった」リンクはそっとお守りをしまった。 「リンク君、わたしも楽しかったわ。リンク君と会って………いろんなことがあったけど、どれも全部、良い 思い出」 「うん、僕も」 「また一緒に旅に出れたらいいな」 ダガーの笑顔に、リンクはふらふらになりそうだったがどうにか耐え、 「うん」 と頷くことしかできなかった。 ジタンはサリア、ティファと会話していた。 「サリア、あの時はありがとな」 「あの時っていうと………ああ、傷を癒したときですか?」 「敬語じゃなくていいよ、普通に喋って」 「えっと……傷を癒したときのこ……と?」 サリアは少し砕けた感じで喋るのが苦手だった。リンク相手なら大丈夫なのだが、何か違和があって途切 れ途切れになってしまう。 「またあんなことになったら、よろしく頼んだよ」 「え……はい……じゃなくて、うん」 はは、とジタンは少し笑ってから、ティファの方へと向きなおした。 「ティファも、セフィロスとの戦いの時には助けられたよ」 「うん。でも一番活躍したのはエーコじゃなかった?」 「ま、そうだったけど」 ジタンはエーコがいる方を見る。リンクに抱きついていたのをダガーが引き剥がしていたのが見えた。 「こうやって集まる時がまた来るのかな」 ジタンは窓へと視線を移し、空を見つめた。 クラウドはシド、ヒルダと会話している。ここでの会話はかなり短いものだった。 「この世界が作られていたなんてな」 「予想外の事じゃったが………」 「でもよく考えてみれば、こんなに連続で新しい大陸が見つかるわけがないですよね」 「そうだな」 クラウドは壁にもたれかかっている。 「また………世界は繋がるのか?」 「じゃあ、みんな。入ろう」 ジタンが皆に向かって言った。全員同時に魔方陣へと入る。 すさまじい光が大公の間を照らす。すうっと、空間を把握する感覚が消えていく。なんとなく、体が少 し冷えている気がした。 目を開けても白い世界が広がるのみだ。 仲間は見当たらなかった。 * リンクは目を開ける。 ここは、どこだろう。そう思ったすぐ後に、思い出した。自分はさっきまで城にいた。そして魔方陣に 入って………。 「ハイラル………なのか?」 リンクは辺りを見回す。見た事のある情景だった。そう、ここはあの光の女神に会う直後にもたれかか った、大木の前にリンクは眠っていた。 「凄いな、ロフェシーは………」 ここはハイラルだ。間違いなかった。ここで唐突に、ある事を思い出した。 リンクは光の女神に言われて向かった、港がある方向を見る。そこには何も無かった。 「ん………?」 少し変な感覚がした。思ってみれば、港なんてあるはずがない。そんな物は無いはずだった。港がつく られた、なんて話は聞いた事が無かった。だが、あの時の自分は港があると思い込み、同時にいつの間に か港が存在していたことに疑問を感じていなかった。これは光の女神、もしくは邪神による記憶、思考能 力の改変だったんだろうか。 「……ふぅ」 リンクは溜息をついた。そんな事を考え出したらキリが無い。 「ロフェシー!」 空へ向かって叫んでみる。 返答は無い。 リンクは再び溜息をつく。これは本当にすべてが終わったということだろう。まだ何かあるのなら、ロ フェシーからまた語りかけてくるはずだとリンクは推測した。 さっきから溜息をついてばかりだったので、今度は反対に深呼吸をしてみた。かなり澄んだ空気で、汚 れがまったくなかった。そしてポケットに手を入れてみる。指先に何かが当たった。その何かとは言うまでも無く、あのお守り だった。 リンクは取り出さず、手をポケットから出した。 背中が軽くなっていると思ったら、装備している剣がマスターソードからコキリの剣に変わって いた。盾はそのままだ。 今ならマスターソードは、時の神殿で眠っているだろう。 「行こう」 リンクは大地を踏みしめ、歩を刻む。 新たなる冒険へと、リンクは旅立った。 −END−