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「お久しぶりです。皆さん」
 そこにいたのは女性だった。光に覆われて、空中に浮いている。
「え………?」
 かすかな声でリンクが応答する。顔に浮かんでいる表情は複雑だった。
「何をしてるの、こんなところで………リンドブルムを助けてよ……」
 必死に理解しようとリンクは苦労していた。だが、思っている事と正反対の言葉が口から出る。
「私はそのためにここに居る訳ではありません」
「俺たちを殺すためだな」
 クラウドの声がする。リンクの目の前に立ち、魔晄を浴びた目で女性を睨み付ける。
「まさか、こんなことだったなんてな………」ジタンも複雑そうな面持ちで見上げている。
 なおも宙に浮いている女性が口を開いた。
「邪神は死んでも、私は彼を生き返らせるほどの力は持っています。ですが、それはあなた達との決着
が着いてからでもよいでしょう」
「お前達は………確かもとは一人の人間だったんだよな」ジタンが様子をうかがいながら訊く。
「そうです」女性は簡潔に答え、優しくもどこか敵対意識が混じった目でジタンたちを一瞥する。
「本当の敵はお前だったのか」クラウドが溜息混じりに言う。「邪神を倒した時点ですべてが終わった
とは思っていなかったが、最後が女神、お前だとは」


「おや、あなたはわかっていたのではないのですか?」
「わかっていたさ………」クラウドはなおも冷静に話を進める。
 誰かが手を引っ張っている。リンクだった。
「いつ頃から気づいてた?」
 クラウドは口を閉ざしていたが、燃えている街を眺めながら言った。
「いつかは忘れたが………自然とわかってきていたんだ」
「………」
 リンクは無言でクラウドを見る。それからクラウドのように街
「おかしいと思っていた………都合良く出てきては俺達に命令をし、そしてまた………」クラウドはも
う一度光の女神へと目を移す。
「あなたの洞察力は大したものです、しかし」女性は音も無く手を前に突きつけた。「あなたの鋭い洞
察力は世界を構築する前から消しておくべきだったと、後悔しています」
 いつかの邪神と同じように、手が光りだす。
「防御しろ! 技だ!」
 クラウドは素早くバスターソードを取り出し、目の前に構える。リンクは急いで盾を取り出して、ジ
タンは手で受け止めようとしている。
 破壊の光が三人に襲い掛かる。
「いまならまだ間に合うわ。どう? 私に服従するっていうのは」
 急に口調が変わった。少し挑発気味で、声も大きくなっていた。
 攻撃に耐えていたクラウドが決死の思いでしゃべる。
「ふざけるな」
「そうよね」
 女性は短く返事をする。
「なら死ぬがいいわ。新たなる神に刃向かったことを後悔しなさい」
 女神は静かにそう言って、技の威力を増幅させた。手先にエネルギーを集中させる。
 だがジタンたちも負けていなかった。
「オレたちをみくびるなよ………ぐっ」
 ジタンは女神から放たれる光線を押し返している。
「ふふ………」
 しかし光の女神はちっとも驚かない。それどころか、余裕な声で、
「素晴らしい力ですが、まだまだですね」
 と言ってから光線の放出を止めた。しかしそれはリンクとクラウドに対してで、ジタンへの攻撃は
まだ続いている。
 あれっ、とリンクは盾を見つめる。クラウドは無言で女神を見る。
「うう………くそッ」
 ジタンは片手で女神の攻撃を防いでいるため、技の威力に押されてだんだん後ろへと体が下がって
いってしまう。
「どう? 私の力は。あなた達とは違うわ。私は神だもの」女神は冷たい目を光線とともにジタンへ
向けている。「神に刃向かう者には破滅しかないの」
「それはどうだろうか」
 音も無く光線が弾かれる。
 剣によって弾き飛ばされた光線は空へと飛んでいき、やがて見えなくなる。
「お前だってもとは人間だったんだろ?」クラウドがバスターソードを片手で持ち、手を下ろしてい
る。「破滅しか無い、ということはないと思うんだけどな」
 空中に浮いていた女神はふわりふわりといった感じで地上に降り立つ。青色の髪が揺れる。身に着
けている服が風を受けて舞うように動く。
 きれいな女性だ、と改めてリンクは感じる。しかし、一番頼れる存在だと思っていた女神が敵だっ
たのだ。身近にいた人物が敵やスパイだったとかはよく聞く話ではあったが、まさか本当に自分の身
に降りかかって来るとは考えていなかった。
 もう一度女神を見る。明らかに敵だ。相違なかった。
「そうだ」リンクはマスターソードを鞘から抜く。シャラン、といういい音がした。「力をあわせれ
ば………」
「そうかもしれないわね」そう言いながらゆっくりと右手を上へ上げる。「でも、現実っていうのは
残酷なものなのよ」
 ジタンは唖然と女神の動作を見つめる。口が素早く動いていた。呪文でも唱えているのかと思った
時、
「来たれ無数の彗星、コメット!」
「すいせい?」
 リンクは思わず空を見上げる。確かに何かが降ってきた。
「避けろ、リンク! あたったらやばい!」ジタンが大きな声で叫んだ。
「うん」
 ほとんど声が出ていなかったリンクだったが、自分めがけて降ってくる小天体を必死で避ける。
 ジタンは素早い身のこなしで彗星を避けながら、横にいる人物に声をかける。
「どうすればいいんだ、クラ………」
 クラウドに対策を訊こうとしたが、降ってくる彗星を避けるのに大変で途中までしかしゃべれない。
「魔法を唱えるのを止めさせればいいはずだ」なんと、クラウドは降りかかってくる物を剣で斬って
いた。「ジタンはリンクと俺よりも動きが素早いから、どうにかして奴を止めにいってくれ」
「わ……かっ、た」
 けれどどうすればいいのか迷った。確かに自分は足がこのメンバーの中で一番速いし、ちょこまか
できて良いのだが、近づいているうちに魔法とかで吹っ飛ばされそうだ。
 とるべき行動を迷っていると、また上から小さな彗星が降ってくる。
 これではラチがあかない。避けるばかりでは体力が持たないし、クラウドの剣にだって耐久力とい
うものもあるだろう。
 やるしかない。
「よし………」
 ジタンは走り出す。これだけ必死に走るのは久しぶりかもしれなかった。
「くらえ、光の女神!」
 なおも彗星を避けながらジタンは少し汗がついた手で短剣を取り出す。出した直後にはもうジタン
の手には無かった。
 サイドスローの要領で思いっきり剣を投げる。
「はっ………」
 女神は驚いていた。おもむろにジタンが走りだしたと思ったら、短剣を投げてきたのだ。対応が遅
れてしまう。
 右腕をあげたままだった女神は急いで腕を下ろそうとした。しかし、
 ダガーの剣先が、女神の腕を斬る。
「きゃあっ!」
 女神は急いで右腕を押さえる。女神のすぐ後ろにダガーは落ちて、止まった。
「完全に急所は外れたな………狙ってたんだけど……ぐっ」
 一方、ジタンも右腕を押さえていた。いきなり腕を思いっきり動かしたせいで、なんとなく腕に違
和感を感じていたのだ。
 そのまた一方では、彗星が降ってこなくなっていた。数々の直撃を受けて、地面はボロボロになっ
ている。リンクは息が切れていた。クラウドは額の汗を拭う。
 街ではまだ火が残っており、消火活動が行われているようではあったが、このあたりに四人以外の
人間は一人もいない。
「うっ………」
 女神は、なおも右腕を片方の腕でつかんでいる。流れ出す血を止めることで精一杯だった。女神の
腕には、深い切り傷が残っていた。地面にも血が少し飛び散っている。
 ジタン達はぼうっとその姿を見ていたが、ジタンが我に返り、
「悪い、クラウド……フルパワーっていうか、いきなり腕を力強く動かしたせいでちょっと変なんだ。
あんまり動かせそうに無い」
 女神の姿に目を奪われていたクラウドだったが、ジタンの声にはすぐ気づいた。
「左腕だけでは剣は使えないのか?」
「普段、ダガーは両手で扱ってるけどな………右手なら大丈夫なんだけど、左手だけで戦うってなる
と、なんとなくバランスが崩れるっていうか………左手だけに剣を持って戦う、ってのはやりにくい
んだ。ほら、短いし」
 クラウドはジタンの右腕を見る。傷なんてものは一つも無いが、痛そうにしていた。
「わかった」
 小さく返答したあと、クラウドは女神の元へと向かう。二人のやりとりを見ていたリンクも、マス
ターソードしまってからついていった。

「無様だな」
「ぶざま………ですって?」
「お前はあの邪神に遥かに劣る。邪神ならあんな攻撃避けていたさ」
 女神はずっと右腕をおさえている。この体勢は変わっていない。
「わたしが………邪神に劣る……? ふざけた………ことを」
「確かにお前の魔力はとてつもないものだ。あの邪神を超えていた」クラウドは皮肉な雰囲気で言う。
「だが、お前がこれほどまでに反射神経が衰え、素早さも低かったとは」
 クラウドは女神の目を見ている。女神もクラウドの目を見ている。
 互いに無言で睨み合っている。しかし、この状況を一転させたのは女神の方だった。
「この者に裁きを与えよ、ホーリー………っ!」
「ぐっ、しまった!」
 クラウドはバスターソードを取り出し、横に振る。何かに少し当たった。だが、その直後にはクラ
ウドは吹っ飛ばされていた。
 『ホーリー』と名づけられたその白い波動弾はクラウドの体を後方へと飛ばし、ダメージを与える。
 リンクが横へ向いたときにクラウドの姿は無かった。大剣、バスターソードだけが横に落ちていた。
 バスターソードをみる。血がついていた。バスターソードを見る際に視界に入った、自分の服の袖
にも赤い液体が付いている。
 目の前を見た。
 女神がひざまずくような体勢で、痛みに耐えていた。
 何が起こったのか? リンクには全然わからなかったが、なぜか、本当になぜか、このときは冷静
になれた。
 バスターソードに血がついている。しかしクラウドは横にいない。光の女神が、致命傷を負ってい
る。
 これだけで十分に推測できた。
 光の女神が聖魔法『ホーリー』を放った直後、クラウドは女神に大きな一撃を与えようと剣を振っ
た。微妙なタイミングのズレのおかげで、クラウドは先に攻撃できたのだ。しかし、攻撃した瞬間、
クラウドも魔法を受けて後方に大きく飛ばされてしまった。
 リンクの横に血のついたバスターソードだけが残った。
「………」
 黙ってリンクは女神を見た。
「うぐっ……リン……ク……」
 あのハイラル平原で出会った光の女神。彼女は自分に必要な物をちゃんと残していってくれて、お
かげで旅に不自由は無かった。親切だったな、と感じていた。
 女神にもらった地図、コンパス、フリーパスポートやルピーはまだ持っている。
 リンクはなんともいえない感覚に陥った。このままトドメを刺さなければいけない。もうクラウド
もジタンも戦えないだろう。トドメは自分の役目だ。自分がやるしかない。
 だが―――この光の女神の姿を見ていると、初めて出会った時の事を思い出すと………。
 殺してしまいたくない。そう思った。
「………」
 リンクは何かしゃべろうとするが、何も話せない。
「たすけ………て………」
 女神はそう言った。地面を見てみると、血の水溜りが出来ていた。リンクのブーツのつま先のすぐ
近くにある。
「………嫌だ」
 リンクはマスターソードを鞘から抜く。今度はほとんど音がしなかった。
 女神がリンクを見上げる。
「どうして……っ」
 リンクはくるりと剣を回転させ、持ち方を変えた。そのまま腕を下に振り下ろせば、間違いなく女
神に刺さる。リンクは湧き上がる負の感情を必死に抑えて言った。
「ふざけるなよ……助けてだって? おまえはジタンやクラウドを傷つけた。それに、これからすべ
ての生きとし生ける者を死と追い込むような事をするつもりなんだろ?」
 悲しい気持ちではあったが、リンクの目に涙は無い。
「……あっけ無かったな………光の女神……! クラウドの言ってた通り、邪神よりも全然強くなか
ったよ」
「っ………」
 ついに女神は後ろへ倒れこんだ。乱れた髪に、赤い水が染みた。
「これで終わる………長い、長い戦いが……」
 リンクは、光の女神の整った顔を見つめる。最初に会った頃は本当に綺麗だ、と感じていた。現世
にこんな人がいたら、一躍有名人になれるだろう―――などと考えていたのだ。
 しかし、今は違う。
「トドメだ、」
 女神が小さく声を漏らす。しかし、よくは聞こえなかった。リンクは躊躇無く、左腕を振り下ろし
た。
「くらえっ!」


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