*

「まだ終わりじゃない………終わりじゃないんだ………クク」
 クジャはまだ不敵な笑いを浮かべている。その笑いは何なのか、ジタン達は知る術を持たない。
「してやったりと思っているみたいだが、逆だね。僕は逆に大いに喜ぶべきさ………。だがさっき言った通り
、まだ終わっていない。だが僕はこの出来事から身を引く。あとはキミ達で敷かれたレールの上を走ればいい。
まあ、もうすぐ終着すると思うが」
 突然、しゃべり始めたクジャに驚きを隠せなかったが、それ以前にクジャの言葉の意味がわからなかった。
全員黙ったままである。
 おそるおそるリンクが口を開く。
「それは………どういうことだ? 敷かれたレールの上……? 終着……?」
「あとキミ達がするべきことは一つ………だがキミ達がそのするべき事を終えれば、僕も消えてしまうか………」
「お前が消えるだって?」ジタンが言う。
「僕は本来ならばこの世にいない存在だ。蘇生力が中途半端なものなら、『生き返らせてくれた人物が死ぬ』と、
同時に僕の命も尽きることになる」
「なら、お前はすでに………」
 ジタンは少し混乱していた。
「ここまで言えば、もうわかるだろう?」
「何がだ」
 ふう、とクジャはわざとらしく溜息をした。
「お………」
 ふたたび口火を切ろうとしたクジャが話すのを止めた。クジャは天を仰ぐようにし、無言でそのまま立ち尽
くしている。
 やがて、正面へ向いた。
「今のは……?」ジタンが訊く。
「テレパシーさ。さて、キミ達に伝言だ」
 伝言って何だ、とふたたびジタンが訊き返す。
「リンドブルム城前へ来いってさ」
「誰からだ」
「ふん………何と言ったらいいか。………新たなる敵と言えばいいかもしれないな」
 クジャが不意に腕を動かし、上へと向けた。
「なっ………」
「……ジタン、さよならだ」
 待て、と言う前にクジャが消えた。あっさりと。

 ったく何なんだあいつは。オレ達を待っていたとか言っときながら結局どっか行ったじゃねえか―――。ジ
タンはそんな事を思っていた。
 しかしクジャはどうなってしまったのか。『さよならだ』。まさか死んでしまったのか? いいや、あんな
あっけない死に方はしないだろう………しかし、気にかかることが残る。
 ―――なぜクジャは生きているのか。
 もちろん、邪神を倒せばクジャも死ぬという保障は全然無い。だがクジャが言っていた言葉を考察してみる
と、やはりそういうことなんだろう。
 まだ何かがある。
 理屈や根拠も無く、ジタンはそう思った。邪神を倒してハイ終わり、ではなく………何かが、まだ。
 改めて辺りを見回す。城も火の回りが速くなってきた。
「ジタン」
 後ろから声がかけられた。クラウドだった。すぐ解る。
「ん?」と普通の反応をしながらジタンは振り返る。
「ここは危ない。とりあえず地下施設へ行ってみよう」
「そうだな」
 ジタン、クラウド、リンク、サリア、シド、ヒルダの六人はリフトへと向かい、非常スイッチを押す。する
とすぐにリフトが降下し始めて、すぐに中層を過ぎていく。
 ジタンが見下げながら呟いた。
「この下にもあるなんて驚きだな」
 小声で言ったつもりだったがシドには聞こえたようで、
「また何か起こった時に………ということを考えて作ったのじゃ」
「さすがはシドだな」
「それよりも」シドは皆の方へと体を向ける。「どうやってパスワードを知ったのじゃ? のぼり棒で上って
来たわけじゃなかろう」
「のぼり棒? そんなものあったんだ」リンクは少し驚いた表情をしながら言い、周りを確かめてみた。確か
に、ずっと上まで伸びている棒がある。とても自分の筋力では上がれそうにない。
「リンクの『感』だ」クラウドがぽつりと答える。
「ほう、感か……それにしても凄いのう」

 やがて、リフトは地下層へと到着した。
 そこには、ジタンたちにとって懐かしい人物がたくさんいた。地下に残っていた者達は再会を喜んでいたが、
シドが真剣な表情で現在の状況を告げた。邪神を倒した、という知らせに皆は驚いたり嬉しがったりしていたが、
クジャの伏線めいた口調、クジャが生きている事を告げると再び空気が暗くなった。
 報告を終えた後、ジタンは再び全員を見渡す。彼女らにとっては一時間ぶりなんだろうけど、自分達にとって
は数日ぶり。『過去の世界』にいた時に、時間の感覚があまり無かったせいかかなり久しぶりにあった気分にな
った。
 クラウドは壁にもたれかかっている。これからどうするべきなのか、彼なりに考えている。たまに、なぜか死
んだセフィロスの姿が頭の中に浮かんでくる。これが何を示しているのかはわからない。だが悪い気はしなかっ
た。そういえばセフィロスを再び倒したのは誰だった? ジタンとティファとエーコだったか………。
 もしかしたら、この現象は『まだ終わっていない』ということを示しているのだろうか? クジャのあの言葉。
何が終わっていないのかはわからない。はっきりとした根拠も無い。『この旅の終わりを示すもの』とは何だろ
う?
 リンクもほぼ同じ事を考えていた。重点的に考えていたのは、あのクジャの言葉。嘘でないという保証はどこ
にもない。だが、信用してもいいような感じがした。あの時のクジャはどこか悲しそうに見えたのだ。本来死ん
でいるはずの自分………。
 邪神の手によって蘇り、再び世界を破滅へと導く使者。
 ジタン達の旅については、以前に訊いている。この世のすべてをつかさどる”クリスタル”をクジャの手から
守り、世界の崩壊を止めたという。
 よみがえって満足だったのだろうか。
 自分でもなぜこんなことを考えるのかはよくわからない。ただ、変な胸騒ぎがしていた。それを感じながら、
リンクはクラウドへ歩み寄る。
「ねえ、クラウド。城の前に出てみようよ。気にならない?」
「ん………」
 クラウドは確かに気になってはいた。敵がいるだろうということは確実だが、果たしてそこへ行く必要がある
のかどうか迷っていたのだ。
 返答しないでいると、ジタンもクラウドの元へ来た。
「行くのか?」
「行くのか、って何だ。俺に全部判断をゆだねるのか?」
「いや………お前の意見を訊きたかっただけさ」
「俺はかまわない」クラウドは答えを出した。「ここにいつまでもいてもしょうがない。いくら地下とはいえ、
そのうちここもダメになるだろう。そうなる前にクジャを倒さなければならない」
 ジタンは口元を緩ませて言い返す。
「オレもそのつもりさ」リンクの方を見ながら続ける。「リンクはどうだ?」
「もちろん行くよ」
 リンクが深くうなずいた。
「だが、本当にいいのか?」クラウドはジタンに確認する。
「何だよ、いいんじゃないのか?」
「違う。行ったとして、俺達に何か利益はあるのか、ってことだ」
「ここにいつまでも居てもしょうがない、って言ったのはクラウドだろ」
「………」
 会話に変な間ができる。それをリンクは必死にフォローしようとした。
「あんまり言い争っちゃだめだって」
「結局どうするんだよ」
「行ってみよう」クラウドは先ほどと口調をがらりと変えた。決意がこもったものだ。「変なことを訊いて悪か
った」

「本当に大丈夫か?」
 シドが心配そうにしながら三人を見る。
「大丈夫さ。というよりは、ずっとここに居てもしょうがないだろ?」
「ふむ………」
 シドはかけるべき言葉が見つからない。と、ここで不意にエーコがやってきた。
「リンク………だいじょうぶ?」
「なんとかなるよ」
 そう、とエーコは小さな声で言った。そんなエーコを見て、サリアは声をかける。
「リンクなら大丈夫だよ。すっごく強いんだから」
「うん」
 ここでリンクの頭に少し疑問が浮かんだ。エーコとサリアはどっちが年上なんだろうか。サリアの口調から見
て、サリアが年下ではなさそうだ。
 そんな事を考えていると、ダガーがやってきて、
「ジタン、必ず帰ってきてね………」
 少し目に涙を浮かべているダガーを見ながら、ジタンは肩回しをして、
「心配するなって。絶対死なないさ」
 ゼルダとティファが一緒にやって来た。
「死んじゃダメだから、リンク………」
 自信満々にリンクは返事をする。
「クラウド………」
「だいじょうぶだよ、ティファ」
 クラウドは思い出の言葉をティファにかけた。気取ったポーズで。
 ヒルダは三人全員に向けて言った。
「気をつけて。敵はどこにいるか、誰かは常にわからないから」
「よし、行こうか」
 ジタンはリフトに付いているモニターを操作する。今回は地下からの操作だったので、パスコードが要らず、
難なく乗ることができた。
 おなじみのボタン音が鳴る。
『操作不可解除機能 作動』
 ジタンに続いてクラウドとリンクが乗り込み、リフトを作動させた。

                      *

 三人は全力を超えた速さで走る。
 これ以上リンドブルムに被害をもたらすわけにはいかない。このままいけば完全に国が滅びかねないような、
そこまでの状況にリンドブルムは追い込まれていた。
「なあ………クジャ以外の敵って……いるのか?」
 ジタンは息を切らしながら言う。返答してくれる相手は誰でもよかった。
「………思い当たるとすればあいつか」
「え?」
 クラウドはそれ以上何も言わなかった。ただただ、走り続ける。
 やがて飛空挺ドックへと辿り着き、階段を下りて城外へと向かう。城内には誰も居ない。兵士もいなければ機
械士もいなかった。火の世界が広がっているのみである。
 そして、廊下で思いがけぬ物を見る。
「モンスター……!」
 城に魔物が入ってきていた。急いで三人は武器を構える。
 リンクはマスターソードを軽々と操って、敵を次々と倒していく。最初のうちは両手で持っていたぐらいだっ
たのだが、今はもう扱い慣れていた。聖なる力が自分を援護し、加護を受けて剣のパワーが上がっているのにリ
ンクは気づいた。盾の扱いもそこそこといったところで、ほとんどの方向からの攻撃にリンクは対応していた。
 クラウドはバスターソードで敵を翻弄するように戦っている。空を斬る剣の音が、ほかの二人にはよく聴こえ
た。躊躇無くクラウドは武器を振り回している。時には剣を横にして防御に使っていて、敵の攻撃によろめく事
は皆無だった。
 ジタンは二本のダガーを両手に持ち、すばやい動きで攻撃する。モンスターも動きにはついていけず、最終的
に倒されてしまう。
「まさか、街中に?」
 ジタンは少し息が切れている。だが短剣をしまう仕草はいつも通りで、リンクとクラウドはすでに見慣れた光
景だった。
「わからない。とにかく急ごう。城を出るんだ」
 クラウドはバスターソードを背中の磁石にくっつける。
「何が居るんだろう」
 リンクがほんの少しだけ震える声で訊く。
「わからないのか?」
 クラウドは額に流れる汗を拭いながらリンクに言う。思い起こせば、季節は冬だ。この汗は、城を襲っている
炎のせい以外の何者でもない。
 ふう、とクラウドは溜息をついてから、
「アイツに決まってるだろ。もう奴しかいないさ」
「え………」
 とリンクは口を閉ざす。
「どういうことだ。クラウドは城の外に誰が居るのか、もうわかっているのか?」
 ジタンの問いに、クラウドは、大体の目星はついてる、と答えた。
「出てみるしかない。真実は………すべての答えは、すぐそこにあるはずだ」
 クラウドは、リンドブルム城の廊下の出口を見た。光が射し、かつ炎があるので外の様子はよく見えない。こ
こを通れば、城の外に出ることができる。
「………敵か」ジタンが訊く。
「たぶんな」
 簡潔に答える。
「ねえ、でももしかしたら味方かもしれないよ? 全部が敵ってわけじゃあ………」
「クジャの知り合いで、オレたちの味方の奴がいるとは思えないだろう?」ジタンが口早に喋る。
 そうか………と暗く応答してから、リンクは額の汗を拭いた。さすがにずっといると、暑くなってきた。身体
が必死に冷やそうとしている。
 切り出したのはやはりジタンだった。
「行こう」
 リンクはうなずき、クラウドは無言で首を縦に振る。そして三人は、運命の一歩を踏み出した。

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