*

 業火がリンドブルムを覆っていた。
 目の前の光景を疑う。見渡す限りすべて炎だった。家が燃え、人が街からあふれ出ている。炎は、燃や
せるものを次々に燃やしてゆき、規模を広げていく。
「うわ………」
 サリアはリンドブルムの街を初めて見る。だが、それが炎の覆われた時にだとは想像もつかないはずで
あった。
 四人はその場に立っているままであったが、冷静なクラウドが我に返って三人に声をかけた。
「ここで立っててもしょうがない。とりあえず、城へ向かおう」
 クラウドの言葉にジタンもあわてて我を取り戻して、
「あ、そうだな。城に行ってみれば何かわかるはずだ……」
 ジタンが何かに気づいたようだったので、クラウドが振り返る。
「何だ」
「ボス!」
 ボスってなんだ、と訊き返す前にジタンが民家の方へ走っていった。
「ったく、あいつは……」
 クラウドも走ってジタンを追いかけ、リンクとサリアもそれにならった。

「ボス、これって………」
「おう、ジタンじゃねえか! いいところに来てくれた、手伝ってくれ」
「ああ………」
 何がなんだかわからなかった。
 ちなみにボス、というのはジタンが所属していた団『タンタラス』のお頭であるバクーのことで、ジタン
は団を抜けてからもボスと呼ぶ癖が抜けていない。
 なぜリンドブルムをこれだけの火が襲っているのか?
 しかしそんな疑問を抱いているときではなさそうだった。目の前の光景を見れば、誰でもそうなる。
「こりゃあ、まずいな」
「ジタン、俺が屋根を持ち上げるからお前はその間にこいつを引っ張ってくれ」バクーは家の崩壊によって
落ちてきた屋根を指差しながら言った。屋根と地面の間にはさまってしまっていた人物は、気を失っていた。
「わかった」

 数分で救出作業は終了した。
「助かったぜ、ジタン。もうちっと色々頼みてえとこだが………行くところがあるみたいだな」
「そうなんだ………急いでシドの所に行かないと」
「邪神だかなんだか知らんが、そういう情報はシドからもらった。……そろそろやばいのか?」
「いろいろとな」
「手伝わせて悪かった。早く行ってこい」
 ジタンは何も言わずに頷いた。バクーはすぐに方向を変えて走って行き、、住民の救出作業を続けてい
る。
「よし、行こう。城に………時間をさいて悪かった」
「大丈夫だ。たぶんな」
 四人の目線は、一直線に城へと向けられていた。


 四人は走り続け、城にたどり着くまでに色々な物を目にした。ガラクタと化してしまったエアキャブ、
ピクルス屋台が倒れていたり、どこへ行っても炎が無い場所は無かった。
 奇跡的にまだ三台ほどエアキャブが車庫に残っており、それを利用して城へ行くことはできた。もしか
したら城付近だけは炎に見舞われていないかと期待したが、その期待は外れに終わった。
 ジタンが運転していたエアキャブから降りた四人は、城へ入る階段を上り、城内へ無事に入った。歩く
ことはなく、階段も一段飛ばしで上がっていたため、サリアは少し息が上がっていた。
「リフトは……こっちは客室だから…こっちか」
 飛空挺ドックから移動して噴水がある廊下へと辿り着く。ジタンは真っ直ぐの方向へ指差した。一同は
再び走り出す。
 やがてリフトの場所へ辿り着いた。しかし、リフトが無い。
「くそっ、こんな時に!」
 ジタンは、近くの手すりについている小さなモニターを見た。ここに、現在どこの階にリフトがあるか
表示される。最近設置されたものだった。
 リフトには最下層、中層、最上層の三つしかなかったが、最近になって地下が追加された。普段は行け
ないことになっている。
 モニターには、こう表示されていた。

『Emergency Mode  操作不可』

「何だこれ?」
 ジタンが首をかしげる。
「どうした」
 クラウドが後ろから顔を出す。クラウドは汗をかいていた。いくらまだ城内は炎の量が少ないとはいえ、
ずっといると暑い。
「エマージェンシー・モードか。非常モードって事だろ」
「何でわざわざ英語で書いてあるんだよ」
「知るか」
 クラウドは冷たく言い放つ。だがジタンは構わずに話を続けた。
「じゃあ上には誰もいないのか?」
「いや、それは無い。シドはまだ上にいるはずだ。さっき、シドが窓から外を見ていたのが見えた」
「そうか………じゃあ最上層に何としてでも行かないと」
「……クジャの奴、もう上にいるのか」
「わからないさ。だが行かないとシドが殺される。行かなきゃダメだ。しかし………」
 これじゃあな、とジタンは頬をかいた。
 先ほどからずっと様子を見ていたリンクも、モニターに顔を近づけた。
「操作不能って書いてあるけど、本当にダメかな………」
 と言ったあと、リンクはつんつんとモニターをつつき始める。
「おい、バカ、壊れたらどうするんだ」
 
 ピポ

「ん?」
「あっ、画面が変わった!」

『パスコードを入力せよ。コードは四桁である。一度失敗すると操作不可解除機能がロックされ、地下施設
での解除しかできなくなる』

 モニターの画面が切り替わり、テンキーが表示された。
「パスコードか………そんなもん知らないぜ」
 ジタンはますます首をひねる。
「闇雲に入力しても終わりか」
「あっ!」
 リンクの突然の大きな声に、ジタンが驚く。
「何だよリンク、突然」
「何かわかったの?」
 サリアが訊く。
「1210じゃない?」
「は? 何を根拠に」
 ジタンは呆れた目つきでリンクを見ている。
「リ、フ、トだよ。リが1、フが2、トが『とお』のトで、10ってわけ」
「ほんとにそうか? 第一それで行くと、『イフト』になるぞ」
「でもこれ以外になさそうじゃん」
「そんなことない、考えるんだ。幸運なことにこの解除機能ってやつには時間制限が無い」
「でも、手間取ってたら火がもっと回ってきて死ぬよ」
 珍しく淡々と言うリンクに、う〜ん………と、またもジタンが悩む。
「やってみてもいいんじゃないか」
 クラウドが言った。
「手がかりは何も無いんだ。そのセン、俺はいいと思うけど」
「……そうだなぁ」
「入力していい?」
 リンクは二人に訊く。
「……まあ、ダメだったらダメだったで他の方法を考ればいいか」
「ああ。うてよ」
「わかった」
 リンクはモニターをもう一度覗き込み、触れて数字を入力した。
 ピ、ピ、ピ、ピ、という古っぽい音が鳴る。
「頼むっ!」
 リンクは思い切ってOKボタンを押した。

『認証中………』

 三点リーダが続くのを緊張しながら見ていると、すぐに画面が切り替わった。

『認証中………………………………完了。リフト管理者と判定。非常モードを解除』

「ふーう………」
 リンクは床に近くにあった壁にもたれこむ。
「へえ……あれで合ってたんだな。シドのおっさんも決め方がわかりやすいや」
 このリフトの事をあまりよく知らないクラウドが、モニターを見ながらジタンに訊いた。
「最上層でいいんだよな?」
「ああ、だけどリフトが来るのを待たないと」
 と言った直後、リフトが地下から上がってきた。
 無事中層まで戻ってきたリフトに四人は乗り、最上層へと向かった。上層の方も変わらず、火がまわって
きている。
 火事のせいで壊れてしまったのか、フロアに到着した時の音が鳴らなかった。
 だがそんなことに気を取られている暇は無い。事態は一刻を争うと、四人は駆け出し、大公の間へ向かっ
た。サリアは少し遅れてついてきている。

 クラウド達と少し離れた位置にいた足の速いジタンが、扉を殴りつけるようにぶち破って大公の間へと飛
び込んだ。

「シド!ヒルダ! 大丈夫か!?」
 目の前に誰かいる。
 ジタンは最初の視野に入ったものだけでその人物が誰か思い出すことができた。
 クジャだ。
 奴が、ここにいる。邪神の言ったことは本当だったのだ、とジタンは思い、こうして今、呆然とクジャを
見ている。
「……クジャ?」
「ん?」
 クジャが振り返る。表情には、不敵な笑みが浮かんでいた。ずっと見ていると、何かの不快感に襲われそ
うだ。
「おや。ジタンか。丁度キミを探していたんだよ…………!」
 ジタンが何か言い返そうとした時、拳を作ってジタンへと向けた。
「吹っ飛べ!」
 突然魔法弾が放たれた。クジャが存在しているということだけでジタンは驚いていたが、突然の攻撃にジ
タンは驚き、動けなかった。
 しかし、遅れて走ってきたうちの一人が叫んだ。
「ジタン、伏せろっ!」
 ジタンはその声で我に返る。
 クラウドの声に従って伏せようとしたが、横に移動するほうが良いだろうと思い、ジタンは床を蹴って右
方向へと移動した。
 すぐ後に、ジタンの目の前で魔法弾と炎の弾がぶつかった。しかしクジャの魔法弾は少し形が崩れただけ
で、まだ真っ直ぐ進んでいた。
 クジャの魔法弾は大公の間の扉へと進んでいく。このままじゃクラウドに当たってしまう、とジタンはあ
きらめかけていた。
「やっ!」
 突然、バチッ、という効果音が扉の方向からきこえた。ジタンは扉の方を向きなおすと、魔法弾が方向を
変えて進み、壁に当たっていた。魔法弾は消える。
 少し間があったあと、ジタンはゆっくりと立ち上がる。
「ありがとな、クラウド、リンク」
 ジタンは、大公の間へと入ってきた二人に言った。リンクは左手にマスターソードを持ち、クラウドは緑
色の宝玉のようなものを持っていた。
「一応持っているマテリアを使ってはみたが……威力は小さかったな」
「でもあの魔法弾が欠けたのはよかったよ。いくら僕のマスターソードがあるとはいえ、僕の力でははじ
き返せなかったかもしれなかったから」
 シドとヒルダは口が開けなかった。
 なぜ、ジタンとリンクとクラウド、さらには知らない少女が扉の向こうから現れたのか。だがシドは四人
は詳しくは訊かなかった。この世界には理屈で通用しないことや説明できないことがたくさんあるのはよく
わかっている。
「こんなことは止めろ、クジャ!」
「こんなこと、とはひどい言い草だ。邪神が世界をあるべき姿へと変えるための一つの目的なんだよ」
 クジャは波動のようなものを手から放った。窓ガラスが音をたててヒビが入っていく。やがてガラスはす
べて割れ、重力を受けて落ちていった。
 そのせいで急に風が入ってきた。リンクとサリアは軽かったので、二人でとっさに手を繋いで強風に耐え
る。
 妙に自信満々なクジャ。しかし、そのクジャの余裕を絶望へと変えれる言葉を四人は知っていた。
「邪神は死んだ」
「!?」
 何も無くなった窓のほうを見ていたクジャが素早く振り返る。
「何だと………?」


 ジタンはクジャがいつ攻撃してきても良いよう、警戒しながらいままであった事をすべて伝えた。だが、
ロフェシーの事はうまく伏せておいた。彼女は自分たちの味方としておおいに関わった人物であり、それを
クジャのことに伝えれば何か面倒なことが起きてしまうかもだろうとジタンが悟ったからだ。
 シドとヒルダもその話を聞き逃さないように聞いていた。
「というわけだ」
「キミ達が………邪神をやったというのか」
 クジャは静かに空を見る。
 しかしすぐにクジャはジタン達の方へ向き、突然笑い始めた。そんな姿を見てサリアはリンクに小声でさ
さやく。耳に吐息が少しかかった。
「なんか……こわい」
 リンクは無言でクジャを見続ける。
 笑いをどうにかこらえている、と言っているような状態でクジャは話し始めた。
「そうか……くく……これで僕は自由か………セフィロスもガノンドロフもいない……残ったのはボクひと
り………」
「おい、クジャ………」
 ジタンが声をかける。ほかの五人はずっと黙って見ている。クラウドは冷静に、リンクは警戒しながら、
サリアはリンクの服の袖をつかんでいた。
 一方、シドとヒルダの二人は扉へと近づいていた。クジャはいつ何をやるかわからないので警戒はしてい
たが、あんな状態ならもう自分達のことなんてどうでも良いんだろうと思っていた。
 やがて大公の間の扉へと到着し、クラウド達と会話する。
「大丈夫か? シド」
「うむ……なんとかな。しかし、あれは……」
 シドはクジャの方へと向きなおす。

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