* クラウドは動けなかった。怪我をしているからではない。これから殺されるかもしれないという思い、 恐怖。そういうものがクラウドを支配していた。 浮いている邪神は手をかざし、光を放出した。 音も無く放たれた光線がクラウドに向かっていく。 「せめてこれくらいの抵抗は……」 ダンッ、と思いっきり床を蹴り、クラウドは右方向へと移動した。 「!?」 邪神は動揺した。クラウドが避けれるはずがないと確信していたのだ。 だがこの光の放出を止めることはできない。何かに当たらなければこの技を止めれない。この青い光の 先には―――。 「しまった、………リンク!」 リンクは唖然といった感じで光を見つめていた。このままでは自分に当たる。リンクの脳内での意識が 言い争いを始めた。 驚いてる場合じゃないだろ。せめてさっきみたいにはじき返せ。 無理だ。手が動かないんじゃだめだろ。右手で盾しか持つことはできないさ。 手が動かないとか言ってる場合か。気合で動かせ。 だけど、本当に動か―――。 「……!」 リンクは思い出した。クラウドがマテリアも使わずに剣だけで戦い、時間稼ぎをしていたことを。 腕の痺れが少し消えている。 「やあああああっ!!」 リンクは左腕を思いっきり動かしてマスターソードを鞘から引き抜き、光線を斬り裂くように剣を真横 に振った。 だが光が裂かれることはなく、剣を振った方向に光が飛んで行く。 リンクは焦ってその方向を見る。 「サリア………!」 光が進む先にはサリアがいた。 「あっ」 サリアはどうしようもない、と感じる。自分にこれを跳ね返すほどの能力などない。 だが、弾き返したリンクは落ち着いていた。 「サリア、鏡を使えぇーーっ!」 大声でリンクが叫ぶ。 「鏡……?」 頭の上にクエスチョンマークが浮かんだが、一瞬で消えた。 この場所へ来る前にリンクに渡された、あのアイテム。リンク達が過去では使い道が無かったと言って いたあの鏡。 魔法を跳ね返せるとロフェシーは言っていた。使うべき時が来た。 「お願い………」 サリアはマジカルミラーを取り出し、光がくる方向へと向けようとしたが、微妙にタイミングが遅かっ た。 しかしその遅れが奇跡を生むことになる。 光に対してズレた角度で向けられた鏡に当たった光は進行方向を斜めに変え、スピードを増して飛んで いった。もしも光に対して直接鏡を向けていたら、再びリンクに跳ね返っていっただろう。 サリアに跳ね返した時の反動は無かった。 そしてその進行方向を変えた青い光は、光源の邪神の元へ………。 目を閉じることを率先させる青く輝く光。強烈に空間を照らしていた。 リンクは目を開けた。目の前の光景を確認する。 邪神が肩をおさえて立っている。 「ぐ…まさか……こんなことになろうとは……」 邪神が歩き出す。 「あいつ……自分のフルパワーの攻撃をくらって……あの程度のダメージなのか」 リンクが呟く。歩いていた邪神は、リンクの近くへと来た。 邪神はリンクの背後にいるジタンを一瞥してから言った。 「前にも言った覚えがあるな……『ダメージは受けようとも、息の根を止めることくらいはたやすいこと だ』」 「……!」 その瞬間、リンクは邪神に横方向へ殴り飛ばされ、床に倒れこんだ。 リンクは力を込めて起き上がる。 「ぐ……っ」 顔から血が出ていた。 「諦めるがいい。所詮、勇者などこれほどのものでしかない」 「……うっ」 リンクはしりもちをつきながら必死に背後へと進む。こんな事をしてても無駄だと思ったが、今やるこ とはこれくらいしか思いつかなかった。左手もさっきの行動でまた痛み出したし、もう攻撃はできない。 右手でマスターソードを握ったとしても、使い物にならないだろう。第一、さっき殴り飛ばされたときに マスターソードを手から離してしまった。今は持っていない。 必死に背後に進んでいた時、 カシン。 手に何か当たった。 「これは……」 リンクの背後に短剣があった。 誰のものか? それは見て明らかだった。 ジタンのものだ。盗賊としていつも身に着けているダガー。ジタンはいつもこれを両手に一本ずつ持っ て戦っている。 「(さっき床に突き刺さってるのを見たときは………一本だったか)」 このダガーは二本目のもの。最初の青い光の攻撃の時にここまで飛んできてしまったんだろう。 「なぜ止まる? もう抵抗はやめたのか」 「そうじゃない」 この軽さの剣なら左手でも大丈夫だろうとリンクは判断して、賭けた。もうこれ以外に道は無い。 リンクはダガーを掴み、腕を横に振りながらフルパワーで投げた。 「刺されッ!」 「………!」 邪神がよろめく。 リンクが投げたダガーは邪神の胸に刺さった。剣が突き出ている。 「どこから………そんなものを……」 「………当ててみろ」 「……これまで……か」 邪神は少し後ずさりをした後、膝をついた。 剣が刺さっている位置は間違いなく心臓だ。もしも邪神が人間であったとするならばの話ではあるが、 確かにそこは急所のようだった。 リンクは立ち上がる。横に気配を感じたので、見てみるとクラウドが近くに来ていた。 「ふ………私の負けか」 邪神の身体が遅いスピードで徐々に消えていく。 「………」 クラウドとリンクは無言で邪神を見ている。 「私は死ぬが、クジャは死なない」 「……なんだって?」 口にしたのはリンクだ。 「おい、もっと詳しく……」 「ん? トドメを刺した相手にもう少しだけ生きながらえるように頼むのか。変な人間もいたものだ…… …」 「違う、僕が言いたいのは………」 リンクは邪神の肩に手をかけようとした。だが、さらりと通り抜けてしまった。 邪神の姿は、もう無かった。 * 「悪かった……リンク、クラウド」 ジタンは肩を押さえながら二人に言う。ジタンのケガはひどいものだった。 「サリアも、すまなかったな」 「いえ、私は………」 特に何もしてないですから、とサリアは手を横に振る。 「だが、今回はいろいろと………何というんだろうな。運が良かったというか………」 クラウドが、床に突き刺してあるバスターソードを見ながら言った。どこも欠けたりはしていなかった。 「そうだなあ。最後、僕の後ろにジタンの持ってるダガーがあったり、サリアがマジカルミラーで魔法を 跳ね返したり………」 リンクはのんきな口調で、思い出しながらしゃべっている。まだ邪神に殴られた時の傷が、少し痛んで いた。 「いたた………」 リンクが頬を押さえる。 「あっ、リンク」 サリアが呼びかけた。何? とリンクが訊き返すと、 「私、回復魔法が使えるようになったんだ」 「へ? 回復魔法?」 「うん。ロフェシーさんから教えてもらった」 魔法ってそんな簡単に習得できるものなのか、とリンクは一瞬とても驚いたが、自分も魔法が使えた事 がある。今はもう使えないが、きっとハイラルにいる『大妖精』に頼めばまた使えるようになるだろうな、 とリンクは思った。 「っていうことは、サリアには魔力があるのか」 クラウドが言った。 「はい………じゃあとりあえず、」 サリアはジタンとクラウドとリンクに手をむけ、何か呪文を唱えだした。 言葉の内容は声が小さくてよく聞こえなかったが、確かに魔法を使っているのはわかった。 「………」 いつまで続くんだろうと思った矢先、サリアの手がぼんやりと光り始めた。その瞬間、三人の身体が光 に包まれる。 「うわ………」 と声を出したのはジタンだった。 サリアの手から出た光はみるみるうちにジタン達の傷を癒していった。数秒後にはすっかり元通りにな っていた。 「うは………こりゃ凄いや」 ジタンは腕を振り、痛みや抵抗が無くなったことを十分に身体で知った。 リンクは驚いて左腕をぐるぐる回している。クラウドはなおも落ち着いた様子だった。 「役に立てて良かった」 サリアは安堵の息をもらす。 あっ、と突然リンクが口を開く。 「そうだ、早くリンドブルムへ行かないと!」 「言われなくてもそのつもりさ」 ジタンはリンクに頼もしい表情を見せた後、辺りを見回す。 「おっ」 ジタンが動きを止めた。 「何?」 「あれ………来た時と同じ奴じゃないのか」 「ん、あれか」 クラウドもその方向を見る。 そこには、光の柱があった。しかし、今度は天井にぶつかったところで消えている。タイプが違うもの なのかとリンクが考えていると、 「とりあえず乗ってみようぜ。あそこ以外は出れる場所がなさそうだし」 「本当に大丈夫か? あの建物内に戻る光の柱だったら行っても同じだろう」 「やってみなきゃわからないだろ?」 ジタンが歩き出す。 「……ったくアイツは………傷が癒えた途端に元気になりやがって」 渋々ついていくクラウド。リンクとサリアもそれにならってついていく。 四人は、すぐに、光の柱が出ている魔方陣のところへとたどり着いていた。 「入ってみよう」 クラウドは無言で頷く。リンクとサリアも従い、クラウドの後に続いた。 全員が魔方陣の上に立った後だった。 『行きたいところを思い浮かべよ』 全員、驚く。 「わっ、頭の中に声が………」 驚くリンクにクラウドが落ち着いて声をかける。 「落ち着けリンク」 「なんて聞こえた………? 行きたい所を思い浮かべよ、か」 『全員、イメージした場所が一致しないとテレポートはできない。注意せよ』 「なるほど、そういうことか」 ジタンは腕組みをする。なぜかリンクは、そのポーズを久しぶりに見たような気がした。それだけ、邪神 との戦いは死と隣あわせだったということだろうと思った。 「だったら、思い浮かべる場所はひとつだな」 クラウドが言う。リンクも、 「そうだね」 とだけ言い、天井を見上げる。が、サリアがリンクの服の袖を引っ張った。 「ねえ、リンク」 「ん」 「どこを思い浮かべればいいの? どこに帰るの?」 心配そうな表情でリンクを見つめる。 「あ……そうか」 そういえばサリアはリンドブルムに一度も来ていない。行ったことの無い場所を思い浮かべれるわけがな い。 「困ったなあ………」 リンクが悩んでいると、ふたたび言葉が聞こえた。 『その場所の記憶が無い者ならば、場所の記憶がある者に触れればよい』 「だってさ、サリア」 「……わかった」 サリアはリンクの肩に手をおく。 四人は目を閉じた。なんとなく、そうした方がいいような気がしたからである。 そしてすぐに、四人の姿が大空の塔から消えた。 ←第五章 決戦−6 第六章 唐突−1→