* 四人はあたりを見回した。 ここは間違いなくあの場所。ここから突然、過去に連れて行かれた。 「どうやら、戻ってきたみたいだな」 ジタンが目の前にある台座を見ながら言った。 「よかったあ……成功して」 サリアは安心して溜め息をついた。そんなサリアの顔色をうかがいながらリンクが口を開き、クラウ ドに対して言った。 「クラウド、服が戻ってる」 「ん?」 クラウドは自分の服を確認した。確かに戻っている。バスターソードも背中にくっついていた。 「オレもだ。リンク、お前も戻ってるよ」 リンクも服を確認した。深緑の色をした服だ。マスターソードや盾も装備している。 「元の時代に戻ってきたから服も戻ったんだな」リンクが独り言をつぶやく。 クラウドはリンクを見ている。リンクに何か訊こうとしていたのだが、なんだか思い出せない。なぜ だろう、と自問した。この時代に来てから忘れてしまっていること。 この世界に戻ってきてから変わっているもの。 「服?」 そうだ、とクラウドはつぶやく。 「おいリンク、どうしてあの時助かったのか、教えてくれ」 一気にモヤモヤが解放された気分になった。そう、戻ってくる前もクラウドは、それが知りたくて仕 方が無かった。 「そういえばまだだった」 リンクは思い出すように表情を変え、ポケットに手を突っ込んだ。 「これだよ」 リンクが差し出したのは、燃えて焦げてしまった木くずだった。 「何だよこれ」 いつの間にか話を聞いていたジタンがリンクに訊いた。 「お守りだよ。エーコにもらった。たぶんこれが守ってくれたんだよ」 リンクが言うお守りという物は、燃えているようにボロボロだった。何かに当たったようだ。外の袋 が完全に焼けてしまい、中にあった木がわずか残ったらしい。 「お守り? そんなもんいつ………」 と、またリンクに質問しようとしたがジタンは唐突に記憶がよみがえり、思い出した。ああ、とジタ ンは納得した声を出す。 「あのときだな。三人目の……クラウドを探しに行く時にエーコにもらってたな、そういえば」 つい最近のことなのに懐かしい気がする、とジタンが腕を組みながら言った。リンクも、そうだなあ、 と返事をしていると、 「あ」 ジタンが外れた声で言った。 「クラウドはどうやって助かったんだよ、あの邪神の攻撃をまともにくらったとき……」 「俺もリンクと同じ」クラウドは布きれを取り出した。「これ」 燃えたような布切れだった。 「なんだったんだ? これ」 「リボンだ」 「リボンだあ?」 「いろいろあってな」 「どういう事か説明してくれよ、クラウド」 「嫌だ」 「何で」 「面倒くさい」 こんな会話をした後、ジタンはわかったよ、と話にキリをつけ、 「同じ魔法みたいな効果でシールドができたってわけなんだな」 そうだと思う、とクラウドが言った。 ふぅ……と、リンクが息をはいた後、 「ふうん……そのエーコって子に御守りなんてもらってたのね」 サリアが木くずとなってしまった御守りを覗き込んでいた。 「………どういう意味?」 「べっつにー」 ふーん、とサリアは視線をそらす。そんなサリアのしぐさを見てジタンは笑いそうになってしまった が、どうにかこらえた。 クラウドもなんとなく少しだけ笑顔になっていた。 「あ、ああ、べつに、そういうワケじゃ……」 あせりながらリンクが言う。そんなしゃべりかたじゃ逆に怪しまれるだろ、とジタンが心の中で突っ 込んだ。 リンクから視線をそらしていたサリアがリンクをもう一度見た。そしてくすっ、と笑い、 「ウソウソ。冗談よ」 え、と外れた声をリンクは出し、溜め息をついてから言う。 「………びっくりするじゃんか」 全員の笑い声が、空間内にこだました。* 「時間が無い、急ごう」 切り出したのはジタンで、顔には決意の表情が表れていた。 「そうだな。本当の戦いはこれからだ」クラウドが同意する。 「早くリンドブルムに戻らないとね。……あ、サリア」 「なに?」 「これ、預かっていてほしいんだけど」 リンクが取り出したのはマジカルミラーだった。 「わかった。しっかり持ってる」 サリアはマジカルミラーを受け取った。リンクは、お願い、と言ってジタンを見る。 「あ………なあ、クラウド」 ジタンの呼びかけに、何だ? とクラウドは返事をする。 「マジカルミラー、使わなかったよな」 「………そういえば」 ジタンの言うとおり、1800年前のスカイタワーではマジカルミラーを使っていない。ロフェシー は「台座がある」などと言っていたが、あの塔に台座なんて無かった。 「どういうことだ? 意味も無くオレ達に手に入れさせたのかな……。いや、そんな事はないと思いた いんだけど……」 悩むに悩むジタンを見て、クラウドが言った。 「とりあえず行こう。邪神のもとへ。後で考えれることは後にすればいい。今何をすべきか考えよう」 まだ少しジタンは悩んでいたが、やがて納得し、そうだな、と頷いてから、 「行こう。サリアも来てくれるよな? ここにずっといても危ない。オレたちがこの場所に戻ってこれ るかどうかもわからないしな」 「はい。行きます」 ここでリンクが、ジタンの背中をつっついて訊いた。 「行くってどうやって? わかるの、ジタン」 「まずはあれを納めよう。この台座に。何かが起こるはずだからな」 ジタンはポケットに手を突っ込んだ。クリスタルが手の中にあった。リンクもトライフォースを手の 甲から出す。クラウドは聖のマテリアを取り出した。 三人はそれぞれ持っていた秘宝を取り出し、台座におさめた。すると間もなく、その三つが光りだし た。 「う……すげ……」 太陽を直視した時のような光の強さだ。いや、それをも超越しているような光だった。全員はおもわ ず目を閉じたり手で覆ったりした。目を開けていなくても光っているのがわかる。 そして今度はチカチカ光り始めた。いま目を開けたら確実に不快感に襲われる。だがそれはそれは長 くは続かず、じきにもとに戻った。 目を開ける。そこにはどこからか現れた光の柱があった。しかしこの部屋に起きた異変はそれだけで はなかった。 「天井が……無い」 クラウドの言った通り、天井が無くなっていた。光の柱はどこまでも続いていて、終わりが見えない。 天井が無いということで空が見えているわけではなく、上を見るとすべて暗闇だった。 「へっ、いかにも邪神のところへ続いてますって感じだ……」 クラウドは次に光の柱に目を向けた。その下にはいつの間にか現れた魔方陣のようなものがある。 「これもさっきの時に出来たんだな……」 光の中に手を入れる。やはり物質ではないらしく、光は手を通した。 「ここに入るとどこかにテレポートできるんだろ。まあもちろん、邪神の所にだろうが」 「入ろうぜ」ジタンが全員に向けて言う。 「ついにこの時が来たな」今度はリンクが言った。 「そうだな」ジタンが答える。「サリア、いいか?」 「はい」 とだけサリアは返事した。どうやら心配をしているのか、声がわずかに震えていた。それを見抜いた リンクがサリアに声をかける。 「大丈夫だって。四人いれば絶対になんとかなる」 「でも……あたし、役に立てないわ……きっと」 「そんなことないさ」 リンクはサリアの背中を叩いた。 「早くケリをつけて帰ろう。リンドブルムに、ハイラルに」 サリアはうつむいている。あんまり効果が無かったかな、とリンクは思い、それ以降言葉が出なくな ってしまった。 微妙な空気になってしまっていたが、ジタンはそれを一気に吹き飛ばすように言った。。 「心配するなって。役に立てないも何も、君は頑張ってくれたさ。今ここにオレ達が戻ってこられたの はサリアのおかげなんだ」 「そう」クラウドが続けた。「今ここでうつむいててもなんにもならないだろう」 クラウドがそう言い添えた後、サリアは少しだけ顔を上げた。 「そう………かな」 「そうだって。だから来なよ。ジタンもいっただろ? ここに戻って来れるかはわからないって」 「わかった……ごめんなさい」べつに謝らなくても、とリンクは続けて声をかけた。 二人に様子を見ていたジタンとクラウドは少し経ってから顔を合わせた。 「さて、そろそろ行かなきゃな」 ジタンが光の柱を見上げながら言う。 「ああ、すべてが終わる………これで」 クラウドが返答する。 クラウドはリンクを見た。リンクは何も言わずに頷いた。口元を緩ませていて、しかしたくましそう な勇者の顔だった。 四人は歩を刻み、魔方陣の上へと移動した。 * 「やっと来たか」 邪神が言った。 「遅くなってすまなかったな」ジタンが言い返す。「ちょっとばかり色々あったんでな」 「どうだった……過去の私は」 その言葉に三人は意表を突かれた。サリアは過去の邪神に会っていないので反応は無かった。 ―――覚えているのか、こいつは。大昔のことなのに……。 「よく覚えてたな……忘れているものだと思ってたが」 「私が封印されていたのは千年と数百年だが、その間の記憶は一切無い。封印されている間は死んでい るのと同じなのだ」 リンクが邪神に対して初めて口火を切った。 「と、いうことは自分の感覚では封印されて少ししか経っていない……ってことか」 「その通りだ」邪神が答える。「ジタン、お前が言ったあの言葉……ようやく理解した」 すぐわかるさ。じゃあまたな。千年と数百年後にまた会おう――― 確か自分はそう言ったはずだ、とジタンは思い出した。 「あなたは誰に封印を解かれたの?」 サリアが邪神に訊いた。しかしリンクが口を開いた。 「誰かに封印を解かれた、とかじゃないんだ。封印の魔力が時間の経過によって弱まって………」 「違う」 邪神がリンクの言葉を遮った。 「封印魔力が弱まったことで私の封印が解かれたのではない。何者かによって解かれたのだ」 「……何だって?」 リンクは自分の耳を疑った。邪神が真実の事を言っているという保障はどこにもないが、その言 葉には何か信じれるものを持っていた。 だが、その人物とは誰だ。 「誰だ、そんなことをした奴は」クラウドが訊く。 「言えないな」 クラウドはそう言われるだろうとは思っていた。 「わからないんだろ? 封印を解いたヤツが」 「違う」 邪神は淡々とした口調で喋る。 「私は知っている。だがそれを話すわけにはいかない」 「………」 クラウドは悟った。こいつが「話さない」と言った事はどうあっても聞くことはできないだろう、 と。 リンクとサリアは無言で邪神を見ている。いつ攻撃されてもいいように、常に警戒している様子 だった。 ジタンがクラウドに続いて邪神に訊く。 「なあ……お前の目的は何なんだ? やっぱり、世界を滅ぼすことなのか?」 「……世界崩壊か。はっきり言ってしまえば、もうどうでもいいな」 邪神はもといた場所から歩き始め、四人に徐々に近づいていく。 「生命体の存在理由などもうどうでもいい。だがせっかくある素材だ」 「素材?」 「この世界を破壊しつくし、何もかも無くなった後に私も死ぬ」 はぁ? と、ジタンは声を漏らした後、 「何言ってんだ。素材……この世界という素材を自分のパワーで破壊しつくす……要するにストレ ス発散ってわけか」 「ストレスというものの概念を理解することは私には難しいが、恐らくそんな感じだろう」 ジタンは溜め息をつく。 「……じゃあ、なんでお前はここでじっとしてるんだ? 早く世界を滅ぼしちまえばいいじゃねえ か! 魔法やら何やらで」「そうもいかない」 歩いていた邪神はやがて宙にふわりと浮いた。 「片方……私だけでのパワーでは、スタミナがもたず破壊しつくすことは難しい」 クラウドが口を開いた。 「………どういう意味だ」 ゆっくりと空中を上っていた邪神はやがて止まり、こう言い放った。 「私は元の力を取り戻すために、融合して新たなる神になる」