*
 クラウドの手には汗がにじんでいる。
 どれくらい剣がぶつかり合っていたかはもうわからない。だが、クラウドは相手が力尽きる
まで戦うという覚悟まであった。
「くっ……きっ……貴様……」
 少しだけ邪神がバランスを崩す。それをクラウドは見逃さなかった。
 「やあっ」などの声も出さず、クラウドは静かに剣を横に振った。邪神に当たる。これが邪
神への初めてのダメージだった。
 だがクラウドの力は強かった。すべての力を振り絞って斬りつけたクラウドも少しふらつい
ていた。
 邪神が呻き声を出す。まもなくよろめき、地面に倒れこんだ。邪神の剣も手から離れ、同じ
ように落ちる
「ぐっ……お前ごとき……に……」
 同じようなセリフを昔に聞いたことがある。それはニブルヘイム事件の時、クラウドが一般
兵という身分でありながら、セフィロスに致命傷を与えた後にセフィロスが言ったセリフだ。
 シチュエーションは同じ……ではないのだが、既視感めいたものがあった。
「すぐにとどめを刺してやる。楽になるんだな」
 クラウドは剣を片手で持ち直し、構えた。剣は下向きになっており、突き刺そうとしたその
時―――。
「はあっ!」
 邪神の腕が突然浮き、魔法弾が放たれた。邪神にとどめを刺すことに集中していたクラウド
は恐ろしいくらいのスピードで吹っ飛ばされ、壁に激突した。
「あっ」
 ジタンはクラウドを見ていた。今すぐにも戦いが終わりそうな雰囲気だったが、それを一気
にぶち壊されたのだった。
「う……」
 クラウドは壁にもたれかかったまま、動かない。クラウドの元へ、邪神は歩いて近づいてい
た。
「あの野郎!」
 ジタンは走っていった。もちろん邪神のいる場所へ。

「ここまで私を追い詰めたのはお前……お前たち、か。初めてだな………一応ほめておいてや
ろう」
 邪神は歩きながらクラウドへ言った。
 殺される―――クラウドは諦めていた。だがその反面、ジタン達は何をしているんだと思っ
ていた。
 その思いも束の間、すぐに考えるのが終わった。
 ジタンが邪神の背後からジャンプし、剣を構えている。だが、
「じゃまだ」
 邪神は振り返りもせず、拳を作って後ろへ腕を振った。それはジタンへ命中し、ジタンもク
ラウドとまったく同じように壁にたたきつけられた。
「先にツンツン頭の金髪から片付けるとしよう……ダメージは受けようとも、お前の息の根を
止めることくらいはたやすいことだ」
 邪神はクラウドへ近づく。邪神はまたしても腕を上に上げた。邪神の手元には剣が現れた。
どうやら呼び寄せたらしい。
「私に戦いを挑んだことを後悔するんだな。さあ、死ぬがいい」
 クラウドは目を閉じた。自分の体が刺されるところなど見てて良い気分がするものでもない。
諦め。それがクラウドを支配していた。体も全然動かない。
 すぐにクラウドは違和を感じた。何も起こらない。
「う……?」
 クラウドは目を開けた。邪神の手が止まっている。それどころか、止まった邪神の手からは
剣が滑り落ちた。
 ガシン、と音を立てて地に突き刺さる。クラウドの足のギリギリ横に剣は刺さった。だがこ
んなことに冷や汗をかいている場合ではない。
「こんどはなんだ……」
 邪神の様子を見ていたクラウドは、かすれた声でつぶやいた。視界がほとんどぼやけている
ので、目の前で何が起こっているのかよくわからない。
 しかし、だんだん見えてきた。
 邪神の腹から、剣が突き出ている。長く、見覚えのある剣だ。
 ジタンか? いや、あいつはさっき壁に叩きつけられて動けなくなってしまっただろう……
……。じゃあ誰だ。この時代の新たな人物か……。

「残念だったな」
 邪神を剣で貫いた人物が言った。
「油断大敵っていうやつだ。見逃したのは間違いだった」
 淡々と告げ、剣を引き抜いた。剣を引き抜いた人物は少しだけ後ろに下がり、邪神が倒れる
分のスペースをあらかじめとっておくのような動きをした。
「……ぐっ」
 邪神は後方へ倒れこんだ。
「勇者をなめるなよ……ッ」
 その声がかすかに震えていたのを、ジタンは見逃さなかった。ちなみにジタンは、クラウド
と倒れている位置が近い。
「な……ぜだ…」
 邪神は倒れ、目を細めながら言った。
 クラウドは邪神が倒れてくれたおかげでその人物が誰かを確認できた。
「リン……ク…なの……か?」
「うん、クラウド」
 リンクは簡潔に返事をした。
 だがまだクラウドは疑問だらけだ。なぜリンクが普通に立っていて、それも邪神を刺すこと
なんてできたんだろう。大ダメージを負っていたはずなのに。
「………」
 クラウドは無言だった。

 ジタンが力を振り絞って立ち上がる。
 よろめきながらも邪神に近づいた。ジタンのダメージはクラウドほど大きくはなかった。
「リンク……よくやってくれたな……」
「あっ、ジタン……立ち上がっても大丈夫……?」
 リンクが純粋に疑問を持っているような顔でジタンを見つめた。
「これからはオレがやる……下がっててくれ。クラウドを運べるか? 子どもだから無理かな
……」
「たぶん大丈夫だけど……やるって何を?」
「あとは任せるんだ。クラウドを運んでくれ」
 リンクは少し困惑したままクラウドの元へ行き、運んだ。数メートル離れている場所だ。
 クラウドとリンクが移動している時、クラウドが小声で訊いてきた。
「おい、リンク……どうして」
「後で話すよ。今はジタンに任せて……何をやるんだろう」
「……さあ」

 リンクはクラウドを降ろし、ジタンの行動を見ていた。

 ジタンはロフェシーの言葉を思い出す。

『彼の周囲で斬れば、その石は封印の役割を果たす。斬ってみればあとは石がなんとかしてく
れるわ』
『素早い身のこなしじゃないと、邪神に逃げられてしまう可能性があるからよ。瀕死の状態に
なったら、すぐにこれを使って』
 まさに今の状況だ。
 邪神はもう戦えそうにない。クラウドに斬られ、リンクに刺されている。
 たったそれだけの攻撃で、邪神はもう瀕死状態だ。ダメージ量が計り知れないほど多かった
という証拠だろう。
「貴様……何をするつもりだ」
「邪神」
 ジタンが言った。
「また、後で戦うことになる。その時は必ず倒してやるからな」
「…………何だと?」
 邪神は腹を押さえながら言っている。
「すぐわかるさ。じゃあまたな。千年と数百年後にまた会おう」
 伏線のような事をジタンは言ってみた。こんなことを言ったとしても、歴史に支障は出ない
だろう。
 ジタンはそれ以上言葉を発せず、スイールストーンを空中へ放り投げた。
 緑色に輝く石が空中を漂っている。
 刃を取り出し、ジタンは振った。不思議な事に、音はしなかった。
 
 斬られた石は粉々になり、きらめきながら舞う。その粉々になった石が邪神の身体に降りか
かった。
 邪神の身体が輝き、消えていく。
 その光は不気味なものではなく、まぶしいほどの聖なる白い光だった。



 さて、とジタンが言った。
 役割は無事に果たした。これで未来は死なずに済む。ジタンはケガを負いながらも、クラウ
ド達の元へ向かった。
 歩いてきたジタンにリンクが言った。
「何をしたの? 邪神がいなくなったみたいだけど……」
「後で話すよ。その時にお前がなぜケガを負わなかったのか、教えてくれよ」
 ジタンはもう気にしなかった。何らかの理由でリンクは無傷だった、と自分を納得させてい
た。
「クラウド、大丈夫か?」
 ジタンが膝をついてクラウドの様子をみる。
「ああ……」
 倒れていたクラウドだったが、とりあえず体を起こしてみた。少し肩が痛い。
「なんとかな」
 フウ、と溜め息をついてからクラウドは立ち上がった。ローブの汚れをはらう。
「帰ろうか」クラウドが言った。
「そうだな」
 ジタンがうなずき、三人はエレベーターを目指す。

                      *

「みんな、ありがとう」
 ロフェシーが言う。頭も下げていたので、ジタン達はどことなく複雑な気分になった。ロフ
ェシーのしぐさを見て、ジタンが言った。
「改まらなくてもいいさ」
 と、サリアが二階からおりてきた。三人を見るなり、一段とばしでおりてきた。
「無事だったのね」
 サリアが安堵の息をつく。
「サリア、何してたの」
 リンクが訊いた。
「星をみていたのよ。とってもきれいだったわ」
「へえー……」
 と、ここでジタンが突然リンクの背中を軽く叩いた。
「みてこいよ。明日、オレ達の時代に戻るからさ。こんな機会はないさ。それに……」
 ジタンはサリアを見た。そうしてからリンクを見る。
 リンクは小声でささやいた。
「……どういう意味だよ」
「べつに。ほら、行ってこいよ」
 リンクは反抗気味だったが、少し迷った後サリアと一緒に階段を上って行った。
 そんな二人を見送ってから、クラウドがジタンに訊いた。
「明日にするのか?」
「どうってことないだろう。いつの時間でも元の時間に帰ることはできる……よな?」
 ロフェシーに問いかけた。
「ええ。帰る時間の指定さえ間違えなければいつでも大丈夫よ」
 そうか、とクラウドは言い、イスに座ってもたれた。
「なんだか、疲れたな」クラウドはまた溜め息をついた。
「オレもだよ」
 家の中にいた五人は、のんびりと過ごした。そして、夜が明けた。


「じゃあサリア、お願いね。一応確認のために言っておくけど、帰る時間は出発時刻から一時
間過ぎているはずだから」
「ああ」
 外の天気は晴れである。快晴だ。窓から見える古代都市の景色に、リンクは少し名残惜しさ
を感じていた。
 この何の脅威も無い時代で暮らすのもいいんじゃないか?
 そう思いかけた頭を横に振った。
 まだだ。まだ戦いは終わってはいない、と心の中でリンクは自分に言い聞かせた。あくまで
自分たちはは歴史通り過去を救っただけ。
「じゃあな、ロフェシー。いろいろとサンキュー」ジタンが笑顔で言った。
 うん、とロフェシーは頷く。
「じゃあ、いきます」
 サリアは手を上にあげた。その動作がなんとなくトラウマだったが、リンクは落ち着いた。
 手に力を集中させていて、サリアは目を閉じている。その真剣な表情を見ながら、クラウド
はどうやって時空を超えるのか興味があった。
 
 間もなく、四人を恐ろしいまでの違和感が襲う。

 すさまじいまでの立ちくらみのような感覚。何かに振り回されているような感じがした。こ
の時代に来るときは感じなかったのに、なぜだろうかとジタンは思う。

 目を開けても、何も見えない。広がるのは果てのない暗闇だった。

 どうせだから目を閉じておこう、とジタンは思い閉じておいたがすぐに開けるような事態に
なった。
 どこからか光がある。
 
 クラウドは目を開けた。
 見覚えのある光景。この部屋は―――。


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