*
 走っていたリンクはジャンプし、邪神に斬りかかった。
「やあああっ!」
 大声を出し、力を入れる。そして剣を思いっきり振り下ろした。
 邪神も剣を構え、横に構えてそれを受け止める。
 剣と剣がぶつかり合う特有の音が響く。
「ぐっ……うぅ」
 リンクは振り下ろしたまま空中で止まっている。力を入れ続けているが、邪神は余裕の表情
だった。
「おまえの小柄な奴の力に負けるほど私は落ちぶれちゃいない」
 などと言いながら、なおも力比べが続く。

 リンクがちらりちらりと後ろを見ている。その視線は正確にジタンとクラウドの方に向いて
いた。
「リンク……なんでちらちら見てるんだ? ………ああ、攻撃しろってことか! そうだよな、
クラ………」
 隣にクラウドはいなかった。それどころか邪神にかなり近づいた位置におり、拳に力を溜め
ているような様子だった。
「ったく……声ぐらいかけろよっ」
 ジタンはクラウドの元へ駆けていった。
「気づくのが遅いんじゃないか」
「わかってるって」
 ジタンは折れた剣の刃を取り出した。やはり握ると、少しだけ痛かった。
「作戦を立ててみたんだけど、どうする?」
 クラウドが提案をした。ジタンはうなずき、リンクの方を見た。なんとまだ力比べをしてい
るらしい。リンクの力もあなどれないなとジタンは感じた。
「そのうちリンクははじき飛ばされてしまうだろう。その隙に俺が魔法を唱える」
「へ? クラウドって魔法使えたんだな」
「マテリアだ」
「ああ、なるほど」
「俺が魔法を唱える。あいつは多分弾き返すだろう。そしてそこに……」
「オレが攻撃か」
「そうだ。頼んだぞ」
 ジタンとクラウドはそれ以上言葉を交わすことも無く、じっとリンクと邪神のいる方向を見
ていた。
 
「ぐっ……」
 邪神が少しだけ声を出した。腕も少し震えている。それを見計らい、リンクが思いっきり力
を入れた。
「(なんでジタン達は攻撃してくれないんだろう……でもさっきの場所からは移動してたみたい
だし……様子を見てるのかな)」
 少しだけ邪神の体が揺れた。
「……はあっ!」
 ガキーン―――と激しい音が鳴った。
「な……!?」
 クラウドが少しだけ唖然とした。
「あ……あいつ……」
 
 『力比べ』に勝ったのはリンクだった。

 それだけではない。リンクは邪神と剣を交え、戦っていた。
 リンクは剣が重いのか、両手で構えていた。邪神は片手で剣を持っている。華麗に剣を操り、
リンクの攻撃すべてに対応している。
 それを見ていたクラウドが口を開く。
「もうこれ以上、魔力は溜めれない。ジタン、状況は違ってしまったが……」
 わかった、とジタンは言いながら頷いた。
「当たれ……」
 クラウドが放った魔法は、まっすぐ邪神の元へとんでいく。
 しかし、ここで思わぬことが起きた。
 剣を交えあって戦っていたリンクが、右方向からの攻撃に対応が遅れ、足がもつれて少しだ
け横に動いてしまった。
 その時―――。
「あ……リンク、伏せろーっ!」
 叫んだのはクラウドだった。しかしもう遅かった。
 魔法はリンクの背中に当たり、リンクは後方へ倒れてしまったのだ。
「………」
 リンクは倒れたまま動かない。
「クラウドっ! ちゃんと狙ってなかったのかよ!」
 普段、少しクールなクラウドだったがこの時は取り乱しているようだった。
「俺はちゃんと狙った……魔法の軌道は良かったはずだ。あいつは邪神の攻撃を防御して、攻
撃の重さに耐えられなかったんだ」
 そう言ってからクラウドは駆け出した。「あっ、おい!」とジタンは呼び止めたつもりだっ
たが、耳に入らなかったようだ。
 邪神は笑っている。
「クックック……哀れなものだ。よりによって力を溜めておいた魔法が仲間に当たるとはな」
 クラウドは邪神に見向きもせず、リンクの体をおこした。
「大丈夫か!?」
 リンクが目を開いた。どうやら死んではいないようで、クラウドはひとまず安心した。
「なんとか……クラウド、僕のことはいいから……邪神を……」
「………」
 リンクの目はしっかり開いており、真剣な眼差しだった。なんとなく、クラウドは強力な魔
法のダメージを受けた直後とは思えない様子に少し戸惑っていたが、すぐにそれは捨て、リン
クにまた話しかけた。
「どうすればいい」
「僕はこのままで………大丈夫だよ」
 そうか、と言ってクラウドはもう一度リンクを寝かせた。すると、ここでジタンが走ってき
て、
「おいクラウド、リンクを安全な場所に……」
「本人はこのままでいいと言っている。それに従うのがいいだろ」
 淡々とした口調でクラウドは言う。彼は剣を背中から取り、両手で持って構えた。
 邪神はそれを見て、余裕の表情を少し変えた。シリアスな雰囲気を出している。ふん、と鼻
で笑ってから言った。
「そいつは戦いの邪魔だ。どこかに置いておけ」
「そうはいかない」
 クラウドは地面を蹴り、邪神に剣を向けた。
 金属音が激しく鳴り響く。
「さすがだ……私と戦うからにはそれほどの力が無ければ」
 クラウドに言ってから邪神は空中に浮遊した。手を上に上げ、なおも喋り続ける。
「くらえ!」
 邪神は手を開き、クラウドへ向けた。手から放たれた紅い光線が一直線にクラウドを目指す。
「あいつは光線技が好きなのか? まったく……」
 クラウドはやれやれというポーズをした。かなり余裕な様子を見て、ジタンが声を出そうと
した瞬間、クラウドも手をかざした。
「マバリア」
 赤い色のバリアがクラウドの前に現れ、邪神の放ったレーザーと戦っている。
 バリアとレーザーがぶつかり合った瞬間の音はすさまじいものだった。邪神は片手でレーザ
ー光線を放っている。
「魔力の持久戦か……嫌なもんだ」
 つぶやきながら、クラウドはレーザーに対してかざしている腕の力をいっそう強くした。一
瞬でも油断をすればバリアを破られかねない。


 邪神とクラウドの魔力持久戦が開始されてからもう十分近くも経っていた。
 リンクはまだ倒れたままだ。ジタンは、彼らの対戦に付け入る隙も無いのでずっと立ち尽く
している。
 ジタンがリンクの身を案じていたとき、また大きな音がした。
「ぐっ!」
 という声だけが聞こえた。
 ジタンはその方向を見てみる―――のだが、眩しくて何も見えなかった。目がくらんだよう
な感覚に陥ったが、視力は徐々に回復していく。
 笑い声が聞こえる。恐らく邪神のものだ。だんだんジタンの目が見え始めてきた。誰かが宙
に浮いている。
 そしてその数メートル先、ジタンの近くだ。誰かが立っている。
「ん……?」
 その人物は何が起こったのかと確認するように手を見ている。言うまでも無いが、それはク
ラウドであった。
「………」
「何…………!?」

 なんとクラウドは、邪神のすさまじい攻撃力のレーザーダメージを受けたにもかかわらず、
傷一つ負っていなかった。
「なんだ……なぜ……俺のバリアは打ち破られてしまった……なのに」
 傷を負っていないことを確認していたクラウドは、自分の目の前に何かが落ちている事に気
がついた。
 何かの布きれだ。材質はそこそこ良いらしく、つやつやしている。
 しかし、燃えてしまったのか、端の部分が少し焦げている。
 見覚えのあるものだった。そう、これは誰かが身に着けていたものだ。
 だがそれは誰だろう?
 思い出す時間はある。この出来事のおかげで、邪神はまだ少し驚いている。
 細い布きれ。こんなのを使うものといえば……。
「リボンか? ………!」
 クラウドは思い出した。
 これは聖のマテリアを手に入れるために、忘らるる都へ向かったときにエアリスから貰った
ものだ。あの時の会話がよみがえる。

『なんだ、もらっていいのか?』

『ううん、ちがう。これからあなたはいろんな困難に会う。その時のための、お守り』

 クラウドはリボンを拾った。強く握り締める。
「エアリスが守ってくれたのか……ん?」
 クラウドは何かひっかかるものを感じた。だがその感覚はすぐに消え失せていく。 
「なぜだ……お前は私の攻撃を受けたはず………なぜだ!」
「自分で考えてみろ」
 クラウドの体力は、魔力を多く使ったせいで落ちているはずだったのだが、これもエアリス
のリボンのおかげなのか。体力は完全に回復していた。
 邪神はその逆だった。魔力をほぼ使い切ったのか、これ以上魔法を使ってこない。
 クラウドは思いっきり斬りかかった。しかし邪神はそれには対応し、剣を振る。
 
 一連の出来事を見ていたジタンは唖然としていた。
 それも無理はなかった。クラウドと邪神が魔力対決を始めたと思ったらクラウドがそれに負
け、邪神の魔法で大ダメージを受けた……はずなのに傷一つ負ってないどころか体力が完全に
回復しているクラウド。
 おまけに今、剣を交えているクラウドと邪神は、完全にクラウドが押している。邪神が負け
てしまうような勢いだ。

 何だろう? 先ほどから信じられない光景が続いている。と、ジタンは思った。
 何がなんだかまったくわからない。
 
 それよりも何より気にかかっていたのは、自分が戦闘にまったく参加できていないことだ。
邪神と『戦った』と言えるのはのは現時点でリンクとクラウドだけだ。

 状況を一層混乱させる出来事が、ジタンの頭の中で起こった。
『ジタン……』
「ん?」
 ジタンはあたりを見回す。女性のような気がしたが、、女性などここにはいない。
『私よ、ロフェシー』
「ああ……って、何でオレの頭の中に声が……」
『時間がないわ。とりあえず聞いて』
 ジタンは少し頭をかきながら、片手を腰にあてた。
「わかった。何だ」
『邪神を封印する方法です。邪神が戦うことが出来ないような様子になったら、スイールスト
ーンを彼の目の前で斬って』
 スイールストーンって何だ、と言おうとした時、ジタンの服のポケットに何かが入っていた
ことに気が付いた。ジタンは手を突っ込み、出した。
 透明で、濃い緑色をした石。まるでエメラルドのような輝きを持つ石だった。
「すごいな……」
『聞いてる? ジタン』
「あぁ、悪い」
 ロフェシーの声に謝りながら、クラウドがいる方向を見た。ずっと剣と剣で戦っている。ま
だまだクラウドが押している様子だった。
『彼の周囲で斬れば、その石は封印の役割を果たす。斬ってみればあとは石がなんとかしてく
れるわ』
「……結構重要な役だな」
『大丈夫。あなたならできるわ。盗賊だったんでしょう?』
「どういう意味だ?」
『素早い身のこなしじゃないと、邪神に逃げられてしまう可能性があるからよ。瀕死の状態に
なったら、すぐにこれを使って』
 クラウドはスイールストーンという石をポケットに入れた。パン、とそこを叩き、
「わかった。必ず成功させる」
 それ以降、ロフェシーの声は聞こえてこなかった。


 ←第五章 決戦−2   第五章 決戦−4

inserted by FC2 system