*
 まだ風は吹き荒れている。何かの予兆ではないか、と言い出したのは意外にもゼルダだった。  
 リンドブルムに残っていた六人は、今後について話し合っていた。ジタン、リンク、クラウドがいなく
なってから、一時間経とうとしていた。
「ねえゼルダ、何かやらなきゃいけないこととか、ない?」とエーコ。
「いま考えているけど……エーコは?」
「ん〜……」
 ゼルダとエーコはとっくに打ち解けていて、お互いの国のことを訊いたり、生活はどんなふうなのかな
ど、歳は少し離れているがそんなことも関係ないようだった。

「うーむ……ジタン達がいないとなっては、勝手に動いても駄目な気がするしのう……」
 外の景色を眺めながらシドは独り言をつぶやいた。かすかに見える海は、荒波が支配していた。
 シドはそんな光景を見ながら、皆の方へと振り返って言った。
「さて……」
 そこまでシドが話した時だった。
 激しい地響きが聞こえ、城が激しく揺れた。立っている状態ではいられず、そこにいる全員がしゃがみ
こみ、身の安全を確保しようとした。
「きゃあっ! なによっ」
 叫んだのはエーコだった。
「エーコ!」
 近くにいたヒルダがエーコの手を掴んで引き寄せ、離れることのないように抱きしめた。
 なおも地震は続いている。
 不思議なことにガラスは一枚も割れなかった。とにかく城が揺れ、立っていられる状態ではないことだ
けは確かだった。だが、天井が割れ始めてきていた。
「ぐっ……」
 シドは思わず右腕をおさえる。
「……あ、あなたっ」
 語尾がかすれつつあるヒルダの声がシドに届いた。
 欠けた天井がシドの腕の横を通り、少しだけシドは傷を負ってしまった。シドはなおも腕をおさえ、痛
みをこらえる様子であったが、
「心配……するな……かすり傷………じゃ」
 揺れ、怪我のせいでしゃべることも容易ではなかった。


「ふう」
 揺れはおさまった。
 しかし、原因が不明。シドはケガをした腕をおさえつつ、窓へ向かい街の様子を見た。
「なんということじゃ………」
 街は、ほぼ壊滅状態だった。数々の建物が倒れ、人も倒れている。幼い子供が泣いている。しかしリン
ドブルムの街内の交通手段であるエアキャブは無傷で、路地に着陸していた。空を飛んでいたおかげで被
害は無かったようだ。
 崩壊した家にはさまれた人を数人で力を合わせて助けているのが見える。家にはさまってしまった人は
男性のようだった。それを四人くらいで引っ張り、何とか出そうとしている。その中には、『タンタラス
団』のボス、バクーがいた。どうやら他の三人はタンタラスのメンバー、シナ、マーカス、ブランクのよ
うだとシドは思った。
 シドは窓に背を向け、大公の間内を見渡した。ダガーは大公の間を観察するように見ていて、何かを見
つけだそうとしていた。
 ゼルダ、ティファも同じように、警戒するようにまわりを見ている。
 一方エーコは、少し泣いているのか―――確認するすべはシドにはなかったが、母であるヒルダに抱き
ついて体が震えていた。
 いったん下を向き、何かを考えていたシドは顔を上げて全員に指示した。
「……さきほどは地震はなぜ起こったのかは不明じゃ。自然か、それとも人為によるものか……。どちら
にせよ、嫌な予感がわしはするのじゃ」
 大公の間にいた数人がうなずく。
「こんなこともあろうかと、地下に避難する場所を作っておいた。そこは頑丈に作られておるから、崩壊
していることはないだろうとは思うが……。わしとヒルダ以外はそこに避難してくれぬか。まだ街の様子
を確認してみたい」
 シドはヒルダを見た。ヒルダはエーコを落ち着かせながらも冷静にうなずいた。
「よし、では移動してくれ。リフトに乗れば『非常時』というボタンがついておるはずじゃから、それを
押せば自動的に地下へ向かう」
 間に足音が響いた。ダガー、ティファ、ゼルダが歩き出した音だった。
 だがエーコはまだヒルダから離れようとしなかった。
「ほら、エーコ。行かなきゃダメ。ここは危ないから早く」
「うぅ……でも………エーコ……」
 エーコは離れない。
「ガーネット女王!」
 シドがダガーを呼び止めた。大公の間を出ようとしていたダガーは戻り、何でしょうか、と訊き返した。
「悪いがエーコを連れて行ってくれぬか。怖がりでのう……」
「んっ……」
 怖がり、という言葉を聞いてエーコはヒルダから離れた。
「べっ……別に怖がりじゃないわ。ただ、あたしは……」
「エーコ、行きましょ」
 ダガーがかがみこみ、エーコに言った。誰もが惹かれそうな、優しい笑顔だった。ダガーもこんな状況
の中でも冷静だった。
「………」
 エーコは無言で歩きだした。


「しかし……なぜこんな突然に起こったのか」
「でも、地震は突然起こるものでしょう?」
「それはそうじゃが……」
 シドとヒルダは、また窓から街の様子を見てみた。
 早くも一通り救助活動は終わっていたようで、住人達はガレキを道を防いでいる片づけていた。小さい
子供も協力して、重いガレキをどかしているようだった。
「よし、街に行こう。エアキャブは壊れていないようじゃったから大丈夫であろう。ヒルダは地下施設へ
避難していてくれ。これからまた何か起きそうな予感がするのじゃ」
「ならば、街へは出ない方が……」
「わしも最初はそう思った。だが、」
 突然、城の窓から光が差し込んできた。シドとヒルダは、反射的に目を閉じてしまった。
 次に開けた時には、部屋が照っているように赤かった。どうしたものかと、シドは街を見た。
 燃えている。街が。
 リンドブルム一面が炎の海となっていて、壊滅状態だった街にさらなる打撃、衝撃が与えられていた。
火のせいで、何も見えない。
「…………」
 それを見て、シドとヒルダは言葉を失った。
 だが、この事態はある人物に引き起こされて起こったものだった。
 その人物とは――――――

「やあ、大公様。お久しぶり……かな?」
 聞き覚えのある声だった。大公の間の扉が勝手に開き、炎が飛び込んできた。城にも炎がまわっていた
のだ。
「ヒルダ様も、お元気のようで……」
「…………」
 開いた口がふさがらない。なぜなら、そこには…………
「リンドブルムは終わりだ。次はアレクサンドリアにでも行きますかねえ……? まあ、あそこは僕が一
度破壊しているんだけど」

 クジャがいたからだ。

                      *

 何でオレは旅をしているんだろう。
 発端は……なんだっけ。突然ブランクがやってきて、シドが帰ってこないからどうのこうの、だったか。
それでオレは城に行き、リンクに出会い、あの話を聞いたんだ。

 オレはなんでここにいる?

 そりゃあ、世界を救うためさ。だからいまは過去にいる。

 だが、なぜオレが?
 
 わからない。そう、リンドブルムを出た目的は、シドを救うためだ。閉ざされた大陸へリンクと行き、
グルグ火山へ入ってシドを助けた。
 あれ………?
 そうだ、そこにはクジャがいたんだったよな。
 クジャ……テラで造りだされ、世界に戦乱をもたらすための死神だったか。
 
 考えることなんてなかったな。
 
 また破壊と殺りくを繰り返すようになったクジャを放ってはおけない。
 理屈なんていらない。
 シドやヒルダ、ダガー、エーコ………これはみんなで戦ってるんだ。
 待ってろよ、ダガー。すぐ戻るから。

 諸悪の根源を断つんだ。あいつさえ倒せば、クジャもきっと消えてしまう。
 邪神さえ倒せば………

                      *

 何で僕は旅をしてるんだろう。
 そりゃあ、あの女神に世界を救うことをたのまれたからだけど……。
 頼まれた? 見ず知らずの人物に?

 あの時に自分はよく信用したな、と思う。ただ外観的にも、口調的にも味方という認識をもってしゃべ
っていたからしょうがなかったかもしれないけれど。

 もしあの女神が敵だったら?

 そんなこと考えたくもない。

 自分の進んでいる道を信じて進むしかないんだ。そうだ、自分。自信を持て。
 サリアだって、ゼルダだって、ダガー姉ちゃんだって……他にもみんな、協力してくれている。世界を
救うために。あいつを倒すために。
 ここは過去だ。これから未来を生み出すのは自分たちなんだ。
 ジタンは言ってくれた。そう、『自分に自信を持て』。『行動を起こさなきゃ結果は出ない』。
 今は行動するのみだ。でなければ未来が死ぬ。自分たちが生まれない歴史が一つできてしまう。

 ここで力尽きるわけにはいかないんだ。

 邪神を過去で封印しても、また僕達は元の時代へ帰ることになる。そこには邪神がいる。
 その邪神を”倒す”ことができなければ、歴史は繰り返される。
 世界が滅びてしまう。

 今、立ち止まってはいけない。そうだろ? リンク。

                      *

 なぜ俺は旅をしているのだろう。

 始まりは……ルークスタウンの時か。
 俺はティファ達と喫茶店で暇を潰していたとき、悲鳴が聞こえた。俺はすかさず立ち上がり、その場所
へと向かった。
 目の前の光景を見て少し驚いたのを覚えている。
 大男と少年が対峙していた。そういえば、二人の近くに赤い光が見えた。あれは何だったんだろうな。
バリアか何かに見えたが……
 で、リンクが急いで宿へ戻ったかと思うと、ジタンを連れてきた。あいつは眠そうにしていたな、あの
時。
 俺は二人の後を追って地底神殿へ向かい、そこで傷を負った……どっちだったっけ。そう、リンクを助
けた。ガノンドロフが剣を振り下ろした隙に、俺が背後から斬りつけてやったんだ。
 懐かしくは無いが、なんというか………

 それから、俺は旅に同行している。
 運命というやつか? そんなものどうでもいいが、俺達が集まるのは決まっていたようだな。
 でなければ、過去を救うことはできなかった。

 元の時代で邪神が復活しようがしまいが、どちらにしても俺を含めた三人は集まることになっていたん
だろう。
 
 もしも、俺たちがこうした形で仲間になっていなかったらどうなっていたんだろう?

 ただ単に集められ、弾む会話をすることもなく黙々と世界を救う勇者。
 つまらないな。単純にだが。

 さ、こんな回想めいたことはもうやめるか。目の前にスカイタワーがある。やるべきことをやろう。

 
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