*

「そういえばさあ」
 ジタンはロフェシーが朝食後に出してくれたフルーツのようなものを食べていた。見たこともないよう
な種類の果実であったが、味はそこそこ良かった。
「オレ達はこうやって過ごしている間にでも、オレ達が来た世界の時間は動いているのか? ………と、
我ながら何を質問しているのかわからない感じがするけど」
「それは大丈夫。私があなた達を元の時代に帰す時は、出発時間のすぐ後に送るから」
 ロフェシーは紅茶をすすってから言った。
「……どういうことだ」
「だから、あなた達が未来を出発した時間のすぐ後に送る、っていうこと」
 わかる気がするがわからない気もした。仕方なくジタンはまた質問をした。
「で、その『すぐ後』ってのはどれくらい後の時間なんだ?」
 うーん、とうつむき加減に考えながら、
「最低でも一時間……酷ければ四時間後くらいになってしまうかも……」
 ここでクラウドが話に入り込むように言った。
「つまり最低でも一時間もの間、俺達がいないまま時間が流れ続けるということなのか」
「そういうことです」
 ここで、リンクがパンにかじりついてから言った。
「何も起こってなきゃいいけどなあ……その一時間のあいだに」
 そうだな、とジタンが相づちをうった。
「なあ、そろそろこの子を連れてきた理由を教えてくれないか」
 クラウドはサリアを見ながら言った。クラウドがサリアを直視していると、サリアは照れたのか顔を少
しそらした。
 ロフェシーもサリアを見て言った。
「そうだ、まだ言ってなかった。サリアは『あなた達三人を元の時代に戻す』手伝いをしてもらうため。
ほら、今あなた達はあの三つの秘宝を持っていないでしょう?」
「そういえば、そうだな」
 ジタンはあの密室の空間を思い出していた。
 ロフェシーはサリアの肩をとん、と叩いてから、
「サリアにパワーを借りるわけ。リンクの知っている人物を探らせてもらったら、サリアが当たったわけ
なの」
 リンクはその言葉を聞いて眉を少しひそめた。
「え? サリア、勝手に連れてこられたの?」
 話をずっと聞いていたサリアは急いで首を横に振った。
「う、ううん。違うよ。リンクがどうのこうのって聞いたから気になって」

 ひととおり話を終えたあと、ジタンがある物を取り出した。
「これがマジカルミラー……だっけ」
 ジタンは鏡を取り出し、木のテーブルに置いた。相変わらず鏡の縁にちりばめられたような宝石たちは、
これでもかというほどに輝いている。
「……夢幻回廊には………?」
 クラウドがやれやれと言わんばかりに肩をひそめた。
「まんまとはめられたさ。どれだけ疲れたことか。まだちょっとだけ足が痛い」
「ごめんなさい。言っておけばよかったのに………」
 ジタンが鏡の宝石に触れながら言った。どうやらジタンは赤い宝石が気になるようだ。
「まあ、いいさ。こうして無事帰ってこれたしな。で、これを取ってきて……スカイタワーだったな」
「スカイタワーへは私が送るから、そっちのことは心配しないで。スカイタワーに入ったら、鏡を置く場
所がすぐあるから大丈夫よ」
「ねえ」
 リンクが控えめに話を切り出した。
「もしも……もしもだけど、今から邪神を封印しに行って、もしも邪神を倒しちゃったりしたら……どう
なるんだろう」
 と、ここでマジカルミラーを眺めていたジタンがその言葉を耳にしてから言った。
「……リンク、『パラレルワールド』という話を覚えてるか?」
 リンクはああ、神殿に行くときに話したやつだよね、と返答してからジタンが続けた。
「つまり、それができる。ここで運よく邪神を倒すことができても、その出来事はこの時間軸における物
と限定されてるんだ」
「あー、えーっとつまりそれは……」
 リンクは机を指でトントンと小さく音をたてながら、髪を少しかいた。
 五人とも少しの間、無言であったがその空気を揺らしたのはサリアだった。
「パラレルワールドがどうの、っていうのは前に聞いたことがあるわ……。ちょっとだけ難しい話だった
からあんまり覚えてないんだけど………。リンク、デクの樹様に聞かなかった? そんなような話を」
「てんで覚えてないなあ」
「二つの世界ができてしまうのよ。その邪神……だっけ。が、消え去った世界とまだ残っている世界。私
たちがいた世界はもちろん後者のほう。でも私たちが未来へ帰る時は『邪神がまだ残っている世界』に帰
ることになるの」
「何で? 邪神が消え去った世界に戻ることはできないの? そっちのほうが楽な気がするけど……」
「よーく考えてみて、リンク。『この世界』では、あなたはまだこれからずーっと先に、生まれる事にな
っているの。リンク、ジタンさん、クラウドさんがこれから邪神を倒して、『この世界』の未来に帰った
ら、『この世界』には、リンクが二人存在することになっちゃうのよ」
「つまり……、ここでもし邪神を倒しても、『僕らの世界』の過去は変わらな………ん?」
「どうした、リンク」
 クラウドが訊く。
「いや………すごいややこしい話なんだけど、『この世界』……僕たちが今いる此処、『過去』。『この
世界』で邪神を倒しても、『僕らの世界』の過去は変わらないんだよね?」
「そうだと思うけど……何で確認するの?」
 サリアが少し不安げに訊き返した。
「じゃあ、『この世界』で邪神を倒して僕らが未来へ帰った時は、その『僕らの世界』の過去で邪神を封
印したのは誰だ、ってことになるよね」
「ん? 待て。逆で考えよう……いや、逆っていうのがよく自分でもわからないんだが、それってつまり
は、だな」
 ジタンは考える仕草。テーブルにひじをつき、考え込んでいる。
「邪神は倒せないのか?」


「倒せない、と断言するには早すぎるだろ。まだ戦ってもいないのに」
 クラウドは落ち着くようにジタンに求めた。
「いや……だがリンクの言っている通りだ」
 いままで黙っていたロフェシーが、語りかけるような優しい声で言った。
「ジタン、落ち着いて。こう考えることもできるわ。『あなた達の時空がねじれている』、と」
「……は?」
 ジタンは声を裏返らせ、かすれた声で言った。
「世界は……たぶん二つある。ここが分岐点となっているの。私は神的な力を持っているけど、それはこ
の時のためだったんだわ」
「意味がわからないんだが」
「ごめん、ジタン。気にしないで。あなた達は『邪神がいる世界から来た勇者達』。つまり、あなた達は
ここから邪神を倒すつもりでスカイタワーへ行っても、邪神を倒すことはできない。封印でとどまってし
まうのよ」
「……ふうん」
「ふうん、じゃないだろクラウド。何のことかわかってんのか?」
「なんとなく、だ」
「ロフェシー、わかるように説明してくれないか」
 切羽詰まったような気迫を持ちながっているジタンに、ロフェシーが言った。
「落ち着いてよ、ジタン」
「……わるい」
「さっきも出てきたけど、この世界は二つに分岐することになるのよ。まさに今から。その二つの世界っ
ていうのは言うまでもなく『邪神が”封印”された世界』と、『邪神が”倒された”世界』」
「俺達がいたのは前者だよな」
 クラウドが金髪の髪を少しだけいじりながら言った。
「そうよ。ここで世界は二つにわかれる。だけどあなた達は『封印された世界』から来た。だからそうな
るように、未来に繋がるよう都合をつけなければいけない。簡単にいえば、ここで邪神を倒しちゃったら
過去と未来に齟齬ができてしまうのよ」
「……よく理解できない。どういうことだ」
 ジタンはイスに深くもたれかかりながら言った。ふーっ、と大きく息をつき、天井を見上げていた。そ
んなジタンを見ながら、リンクが言った。
「正直言うと、僕も……」
 リンクは遠慮気味に言った。
 だがクラウドはそんな二人をかやの外へ出したように、話を続けていた。
「なあ、だけど俺達が邪神を倒す歴史さえ存在していなかったら、やっぱり時空がねじれてるなんてこと
じゃないんじゃないか」
「その辺は私にもわからないけど……まあ、スカイタワーに行ってみるしか今のところ道はないわ」


 何だかよくわからないまま話を終えた五人であった。スカイタワーに行く予定である未来人三人は、来
たる戦いに向けて休息を取っていた。
 リンクはサリアと久しぶりの会話で、話がはずんでいるようだった。二人を横目で見ていたジタンは、
そういえばダガー達は一時間のあいだ、どうしてるんだろうと気にしていた。
 クラウドはというと、壁にもたれかかって何かを考えている様子だった。
「ねえロフェシー、この鏡には他に使い道はないの?」
 リンクにマジカルミラーを見せてもらっていたサリアは、興味津々にロフェシーに質問した。サリアは
指先でつんつんと宝石を触っている。
「使い道……かぁ。………あ、そういえば魔法が跳ね返せるって聞いたことがあるわ」
 宝石をつついていたサリアはその手を止め、鏡の裏を見ながら、へえー、すごーいと感嘆の声を上げた。

 サリアの笑顔を見ていたリンクは、少しだけでもいいからコキリの森に戻りたいという気分になった。

 リンクはサリアとロフェシーの元を離れて、剣をじろりじろりと見ているジタンの元へ行き、話しかけ
た。どうやらかなり念入りに観察していたらしく、二言、声をかけなければ振り返らなかった。
「なんだ?」
「そんな剣で、邪神を倒せ……封印できるのかな」
 剣の柄を持っていたジタンは、手を刃の部分に持ち替えて柄を観察しながら、
「頑張るしかないさ。なんせ、オレ達の未来がかかってるんだ」
「…………」
 無言だったリンクを気にして、ジタンは作業を止めた。
「どうした?」
「不安なんだ。僕達の力でできるのかどうか」
 うつむいているリンクはジタンが握っている剣を視界に入れながら言った。ジタンは剣を置き、リンク
の方に振りかえった。
「だから言っただろ。やるしかないんだ。行動を起こさなきゃ結果は出ない。そうだろう? どれだけ悩
んでいても、結局何もしなかったらすべて悪い方向に進んでしまう」
「…………」
「あぁ〜もう! パッとしないヤツだな、ったく。サリアにいいところを見せてやれよ。一時的とはいえ、
世界を救うんだぞオレ達は。自分に自信を持てってば。お前はそんなに勇気のないヤツだったのか?」
 その言葉を聞いたリンクは、少しだけ顔を上げ、
「……わかった。ありがとう、ジタン」
 リンクの言葉にジタンは返答せず、また剣を見始めた。


「さーて、行くか!」
 背伸びをして、手首を振りながら言ったのはもちろんジタンだ。
「どうやってスカイタワーには行くんだ?」
「私がテレポートさせます。準備はいいですか?」
 クラウドが服の襟を直しながら、落ち着いた声で言った。
「テレポートか。俺にもそんな能力が欲しいね……リンクはいいか?」
「うん、大丈夫」
 不安の表情を残しながらリンクは口を開いた。
「じゃあ…………」
「待って!」
 テレポートの魔法を唱えようとしたロフェシーをサリアが止めた。
「ごめんなさい」
 サリアはリンクに駆け寄り、両手を掴んだ。サリアの温かい体温が伝わってくる。
「絶対に死んじゃダメだから……必ず帰ってきて!」
 手を握られていた事にあっけにとられていたリンクは戸惑いながらも、力強く、しかしどこか優しさが
こもった口調で笑顔になってから言った。
「もちろんさ」

                        *

 外では強く風が吹き始めていた。露店を開いていた商人達は、急いで片付けを始めている。季節は真冬
とあって、冷たい空気は肌を刺すかのように吹き荒れていた。
 漁業区で漁をしていた者達は急いで網を引き揚げ、港に帰って行った。

「……?」
 首を傾げたのはダガーだった。
「三人は……どこへ行ったの?」
 リンドブルム城。ここにいる人物を再確認すると、ダガー、エーコ、ゼルダ、ティファ、ヒルダ、シド
の六人だ。
 呆然と立ち尽くしていたシドは、ヒルダに声をかけた。
「ヒルダよ、三人はどこへ消えたのじゃ?」
 同じく驚きを隠せずにいたヒルダであったが、冷静に受け答えた。
「わかりません。ですが、かなり遠い所に行ってしまったのは確実だと思います」
「なぜじゃ?」
「三人の気配が、少なくともこの辺りでは感じられないのです」
 ティファが口を開いた。長い髪が少しだけ動く。
「それってどういうこと?」
「まだわかりません」ヒルダは冷静だった。
 ここでエーコが、ヒルダのドレスを引っ張った。小さい手が、少し強い力でぐいぐいと引いている。
「なあに、エーコ。そんなに引っ張ったら破れてしまいますよ」
 エーコは急いで手を離した。
「ごめんなさい、お母さん。えっと、ジタン達はあの三つの宝物を出して……それで消えちゃったんだよ
ね」
「そういえば、そうだったわね」
 うーん、と深く考えていたゼルダが口を開いた。
「どういうことなんでしょうか。あの三つの宝を同時に出した途端、姿が消えて………」
 三人のことを優先して考えていた一同であったが、シドは違っていた。
「三人の気配は感じられないとあれば、何かの理由があるのじゃろう。わしたちはわし達で、いまできる
ことをしよう。もちろん邪神に対しての、じゃが」

 果たして『いまできること』など自分たちにあるのか、そこから考えることになった一同であった。

 
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