*

「おい、どうなっている」
 ここは紀元後の世界、ジタンとリンクとクラウドがいた時代だ。三人がいなくなった世界では、邪神
が少し混乱していた。
「やつらの気配が感じられん。なぜだ」
 邪神は目を閉じ、何者かと会話をしていた。邪神が返答を求めていると、向こう側で空気が凍りつい
たような感じがした。
「……わからない。だがあの三人は確実にこの時空から消えている。原因は不明」
 邪神は軽く舌打ちをした。しかしそれが向こう側に聞こえたようで、
「………ならば、あなたが探すといい。私の力では少なくとも三人の気配を感じ取ることができない。
だが、あの三人の周りにいた人物たちには何の変化も訪れていない」
 ガーネットや、ゼルダなどの身には確かに何も起こっていないようだった。彼女らは、未だに消え果
た三人の姿を探している。
 と、ここで引っかかったことがあった。あの既視感のような感覚。自分は三人の勇者に封印をされた。
そしてこの世界の三人の勇者。外見がほとんど同じ。いや、まったく同じかもしれない。
「おい」
「はい?」
 会話相手は意表を突かれたかのように返事をした。
「本当に奴らはこの世界にいないんだな?」
「それは確実」
「なぜだ?」
「原因は不明」
 まるでロボットと話しているかのようだったが、仕方がなかった。『相手』はもともとこういう性格
なのはわかっていた。
「考えられる理由はないのか?」
「たくさんある。が、何者かに殺された確率は非常に低い。確率は1パーセントにも満たない。私が三
人のパワーを観測していた限りでは、彼らのパワーが弱まることはなかった。一瞬でこの時空から消え
たと思われる」
「……何者かに殺された確率は低いにしても、何者かによって奴らは別の世界へ行かされた……という
ことは無いか」
「その可能性もある。確立は約50パーセント」
「やけに高い確率だな」
「他に考えられるものとしては、三人は何らかの理由で程遠いところまで行き、この私でもパワーが観
測できなくなっているというもの。この確率は約21パーセント。他には三人が気配を消し、私達にパ
ワーを観測させないようにさせている、というもの。この確率は約25パーセント。あとは……」
「いや、もういい」
 低い確率の考えをはいはいと聞いていてもしょうがない。それよりも大事な事がある。
「………実は打ち明けるとだな。奴らとは一度だけ会ったことがあるんだ。それは間違いない」
「……どういうこと?」
「奴らは多分、世界改変を行っている」
 今までテンポよく進んでいた会話が少しズレた。数秒間の間があった後、相手がやっとの様子で口を
開いた。
「…………つまり、あの三人は」
「間違いない。奴らがこの時代にいない理由はこの結論付けでいいだろう」
「……そんなことを………誰が……」
「知らない。だが」

「奴らは今、世界改変のために過去にいる。過去で暴れている自分を封印するために」

                      *

 すうー、とリンクは大きく息を吸った。決して慣れた空気ではないが、外に出たら安心できた。辺り
はもう暗くなっていた。つまり夜である。あの恐怖の夢幻回廊では、時間の感覚が完全に失せていたの
で、今が何時くらいであるかはわからない。
「もう暗いな。早くロフェシーの家に戻ったほうがよさそうだ」
 そう口にしたのはクラウドだった。辺りを見回し、周囲に人がいない事を確認した。
「こんなところにいつまでもいても気味が悪いしな。何か出てきても嫌だし」
 ジタンが神殿の入口を見てから言った。ここでは知らぬうちに夢幻回廊というやっかいなものに巻き
込まれ、鏡の裏に隠された暗号を解いたのだ。
「よし、じゃあ行こうよ」
 リンクがすたすたと歩き始めた。クラウドもそれに合わせて歩き始める。まるでリンクが、リーダー
のようであったがジタンは別にどうでも良かった。
 ジタンも歩き始めた。後ろ歩きをしながら地底神殿を見る。

「もうここにはなるべく来たくないな」
 
 そんな事を思いながら、ジタンが神殿にくるりと背中を向けた。


 トントン、と軽くノックをした。もしかしたら寝てるんじゃないかと心配したが、それほどまでの時
刻になっていないことは、ロフェシーの家に来るまでの家々で確認できた。どの家からも光が窓から漏
れていたからだ。
 返事は無くドアが開かれた。
「あ……」
 ロフェシーは何故かあっけにとられたような表情だった。
「何だ? オレ達が帰ってきちゃ変か?」
 少し笑って見せてジタンが言った。
「無事だったんだ………良かった」
 涙が出てきていたのか、彼女は目を指で少しさわった。しかしその動作をすぐやめて、リンクに視線
を移した。
「リンク、お友達がいるわ。良かったら会ってあげたら?」
「友達……?」
 もちろんこの時代にリンクの友達などいない。はて、そのような人物にはまだ会っていないんだけど
と思いながら、ロフェシーに返答をよこした。
「この時代に友達なんていないはずですけど……」
「そうじゃなくて、ほら、あの子」
 ロフェシーが指をさした先には、ソファーがあり、その上で誰かが寝ていた。
「ん?」
 少し気になったのか、リンクは歩き始めてソファーに近づいた。
 その人物は、静かに寝息をたてている。
 かつてコキリの森で―――仲良く遊んでいた緑髪の親友。
「サリア」
 リンクは小さくそう声に出した。リンクは困惑した。なぜ彼女がここにいるのか、どうやって来たの
か、いろいろな疑問が一瞬のうちにごちゃまぜになった。
「う………ん……」
 そんな事をリンクが考えていると、サリアが寝返りをうった。よく見え無かった寝顔が、体が動いた
せいでよく見えた。
 顔に落書きとかしてもいいんだけどな、とリンクは一瞬思ったが取り消した。
 彼女は気持ちよさそうに寝ている。起こさないほうがいいかなとリンクは思い、ジタン達の元へと戻
っていった。
「ねえ、ロフェシー。何でここに……?」
「理由はちゃんとあるけど……長くなりそうだから明日にするわ。それに多分サリアは明日まで起きな
いから」
「なんで?」
「私がいままであったことを彼女にすべて話したのよ。最初からすべて。疲れるのもわかる気がするわ」
 ロフェシーはサリアを一瞥してからジタン達に、入って、という動作をして台所へ向かった。
 ふーっ、とジタンが大きく背伸びをしながら息をはいて、
「さーて。まあオレ達も寝るか。ロフェシー、体洗えるところとかあるか?」
「ああ、それなら川の水を引いてある部屋があるから、そこで洗えばいいわよ」
「サンキュ」

 こんな感じで三人は疲れを取るためにしっかりと休息をとった。


 何かに引っ張られている感覚がした。
「ん……?」
 目を半分くらい開けてみる。誰かいた。なんとなく想像がついたが、リンクはそのまま寝ることにし
た。
「こら、リンク、起きてるなら早く起きないと!」
 懐かしい声だった。たった1年ぶりくらいのはずなのに、5年も6年もこの声を聞いてないような感
覚がした。
「……むにゃ」
「もう」
 ガバッ、という音がした。一気に布団を覆っていた外気がリンクを襲う。寒い。仕方が無くリンクは
しぶしぶと起きた。
「……ふわぁ」
 リンクがあくびをした。周りを見てみると、布団はもぬけのからだった。
「ねえ……他の二人ふぁ?」
 語尾を言うのを失敗した。そんなリンクにサリアは笑いながら答えた。
「他の二人の人たちはもう下にいるわ。早く行ったら?」
「……昨日あんなに遅くまで起きてたのに………はぁ」


 ちなみにリンク達は、二階にあった広い部屋で寝ていた。昨日の夜のことである。


「ごふぉうっ」

 布団を敷き終え、毛布の上に座り外を眺めていたクラウドに突然枕が命中した。
「ははーっ、命中命中」
 クラウドは布団に手をつき、起き上がってジタンを睨み付けた。
「……何だ」
「何だ、じゃないだろ。枕投げだ、枕投げ。知らないか? クラウド」
 知らない事は無かった。一度だけ、神羅カンパニーの一般兵だったころの旅行で、兵の仲間とやった
事がある。そういえば彼らは今どうなっているんだろうと気になった。
「そんなもん知るか。お前ら二人だけでやるといい。俺は寝る」
 ツンツンした口調でクラウドはそう言うと、毛布をかぶって布団にもぐりこんだ。どうやらクラウド
は寒いのが苦手らしい。
 ちなみにこの時代のこの季節はジタン達の言い方で言えば”冬”だった。
「付き合い悪いなあ。二人でやってもつまんないしな。寝るか、リンク」
「う、うん」
 喧嘩したような二人を見て少し動揺したリンクであったが、布団に入ろうとした時………だった。
「ごふぉっ」
 ジタンの頭に何かがあたった。ジタンがこちら側に倒れてくるのを見て、リンクはとっさに避けた。
 ドン、という床の音がしてから、三人がいた部屋の扉が突然開けられた。顔を出したのはロフェシー
だった。
「ねえ、サリアが寝てるんだから静かにしてよ」
「……あ、悪い」
 ロフェシーはそう告げただけでバタン、という効果音を出して扉を閉め、部屋に戻って行った。ロフ
ェシーも二階で寝るのだが、サリアを一人で一階に残しておくのは気がかりだったのでロフェシーが二
階まで起こさないように運んできたのだった。
 さて、先ほどの状況へ戻ろう。何者かが投げた枕が、ジタンの頭に命中した。その何者かというのは
もちろん、
「……クラウド」
 ジタンは枕がとんできた方向を見て言った。クラウドは少し笑みを漏らしている。
「これくらいも見抜けないとはな」
 クラウドとジタンがまた睨み合っていた。しかし、本気の睨み合いではないのはリンクでもわかった。
 ジタンは、素早く枕をひっつかんではクラウドに投げた。剛速球ような速さでクラウドに向かってと
んでいく。クラウドはその枕を取れないと踏み、避けようとした。が、
「く……っ」
 ぼふん、という音と共にその枕は見事なまでにクラウドの額にあたった。プッ、とリンクが吹き出し
そうになったのをクラウドは見逃さなかった。
「……くらえっ!」
 クラウドは左手で額を押さえるフリをしながら、ジタンが投げてきた枕を取ってリンクに投げた。
「うわっ!」
 まさか自分にとんでくるとは思ってもいなかったリンクは案の定、枕にあたってしまった。


 昨日の夜こんなことがあった、とリンクは階段を下りながら手短にサリアに説明すると、
「だから昨日少し騒々しかったんだ」
「え………サリア、もしかして起きてた?」
「まあ、しっかり覚えてはいないけどね」
 サリアは頭をつんつんとつつきながら言った。


 サリアとリンクは、遅れて朝食の席についた。
「へえ………おいしそう」
 リンクはスプーンを持って、目玉焼きを食べ始めた。
「おいおいリンク、塩かかってないぞそれ」
 ジタンが注意をして、塩の入ったビンを手渡した。
「ありがと」
 塩をリンクに渡したジタンは、少しずつトーストを食べているサリアに話しかけた。
「サリアさん……だっけ。リンクとは親しいのか?」
「あ、呼び捨てでいいですよ」
 サリアは丁寧に修正を求めた。
「リンクとは……森にいたときはよく遊んだ。でも最近は全然会ってなくて……今日会って1年ぶりく
らいかな?」
 サリアはリンクに問いかけた。
「それくらい」
 ぶっきらぼうな返事をして、リンクは紅茶をゴクゴクと飲み干す。そうしてから、リンクはロフェシ
ーの方を見て質問をした。
「ねえ、何でサリアがここに?」
 同じく紅茶を飲んでいたロフェシーは、
「それは朝食が済んでから話すわ。今はゆっくりご飯を食べて、その話は後で」

 その後もリンク、サリア、クラウド、ジタン、ロフェシーの五人は喋りながら食事を続けた。

inserted by FC2 system