*

 太陽が空高くにある。もう午前の十一時三十分だ。やばい、と思いつつ、ジタンは『沈黙のスープ』
を飲み終えて、マスターに代金を支払った。
「おぉジタン、今日はやけに急いでるじゃねえか」店のマスターが、使用済みの皿を拭きながら訊いて
きた。赤いソースが付いているところを見ると、その客はミートソースのスパゲッティを食べたのだと
安易に想像できた。
「まあな。たぶんシドのおっさんから呼ばれたんだと思うけど、依頼とかいって城にいかなきゃならな
 いんだ」ジタンは靴を履き直しながら言った。
「なんだい?またお姫様でも誘拐するのかい」
 すると、ジタンはいやいや、と笑った。この亭のマスターにはガーネットを誘拐した時の話を漏らし
てしまったことをジタンはぼんやりと覚えていた。確かあのときは酒を飲んでいたからだ。
「違うと思うぜ。おそらくはな」
「まあ、お前にわざわざ来るくらいの依頼だからな。覚悟はしといたほうがいいと思うぜ」マスターは
にやにやしながら言った。
「ああ、そうしとくよ。ごちそうさま」ジタンも少し笑ったまま店を出た。
 この街もあのアレクサンドリアの襲撃を受けてから、かなり復興作業が進んだなあと思っていた。今
は街のみんな、買い物をしたり子供はフィギュアで遊んでいたりする。
 ジタンがこの街に戻ってきた理由はほかでもない。この街が好きだったからだろうと自分で思ってい
た。変な話、自分でもなぜこの街に戻ってきたのか理由はわからなかった。アレクサンドリアにいれば、
ガーネット、いやダガーと自分は上手くいきゃあ結婚していただろうに。そのことにだけは少し後悔し
ていた。でも、あの小さな家でも、あのもろいベッドがある部屋でも十分この街にいることが幸せだと
思っていた。
 エアキャブに乗り、「リンドブルム城へ」とジタンは駅員に話した。するとガタン、という音ととも
に、エアキャブが城に向かって動き出した。

 時刻は十一時五八分。こんどこそホントにやばい、と思ってジタンは駆けだした。以前、城に向かっ
た際、三分の遅刻でいれてもらえなかったことがあったからだ。床はカーペットがしいてあるので、そ
こまで音は響かなかった。城内に入ると、時計は十一時五十九分だった。足の速さには自信があったが、
ここまでギリギリだと、間にあったにもかかわらず冷や汗をかいた。
「お名前をお願いします」と、リンドブルム兵が声を掛けてきた。「ジタン・トライバルです」と答え
た。
「えっと、ジタンさんジタンさん・・・・十二時十分のお約束の方ですね」リンドブルム兵は小さな手
帳を開きながら言った。そこに今日の訪問者が全員載っているんだろうとジタンは思ったが、このリン
ドブルム兵の言葉を訊いて、おかしいと思った。
「え?確か十二時のはずだけど・・・違った?」
「はい、確かに十二時十分と記載されております。十一時三十分から十二時までは王妃様のお食事時間
となっておりますゆえ」
 この口調で、ジタンはアレクサンドリアの兵隊長のスタイナーを思い出した。
「そうか、まあそうならいいんだけど。じゃあ通るよ」
「はい、どうぞ」
 ブランクのやつ、少しとはいえ時間を正確に言わなかったのかよ、と少し力が抜けた。
 城のリフトに乗り、最上層を選んだ。間もなくリフトは最上層につき、早い足取りで大公の間へ向か
った。ここでジタンは時計を見た。時刻は十二時七分を指している。もしかしたらブランクは、自分が
ギリギリに城に来ないように、わざわざ時間を早くいってくれたのかと思った。ジタンはもう一度『大
公の間』で上級兵のチェックを受け、どうぞ、お入りくださいと言われたので入った。

 入るとそこには、見覚えのある女性がいた。リンドブルムの王妃、ヒルダガルデだ。
「あ、こんにちわ」ついついジタンは綺麗な女性には礼儀正しくしてしまう。
 すると、ふふふっ、となぜか笑われた。
「普段の口調でよろしいですよ」
「ああ、そうか。ならいいや」ジタンは一瞬のうちに口調を変えた。「で、依頼っていうのは?」
「はい。実は私の夫のシドが、グルグ火山に入ったっきり、戻ってこないのです」ヒルダは落ち着いた
感じで話した。
「ええええええっ!?」ジタンは思わず大声を出してしまった。しかし落ち着きをすぐに取り戻した。
「ちょ、ちょっと待って。もう話は読めた。つまり・・・閉ざされた大陸まで行って助けに行って欲し
いってことか?」
「本当に申し訳ないのですが、それをお願いしたくて」ヒルダは顔を下げて言った。
「うーん・・・。わかった、でも・・・」そこまで言ったところで、一人の少年が飛び込んできた。

 それは、緑色の服を着た、背中に剣と盾を下げた金髪の少年だった。

                      *

 2人とも、その少年を見つめた。突然飛び込んできたのもあるが、どうやってここまでたどり着いた
かが何よりの疑問なのだ。
「あのっ、はあっ、こちらに、強い、戦える人は、いませんか」リンクは息を切らしながら質問した。
「強い戦える人?何だそりゃ」ジタンはリンクに駆け寄りながら言った。
「僕、何と言ったらいいのか詳しくは話せないけど、世界を救うために勇者を探しているんです」
 ジタンは手をあげながら背伸びをした。
「世界?お前、何言ってるんだ」
「まあまあジタン。話を訊こうではありませんか」ヒルダは優しい口調でリンクにも語りかけるように
言った。「それはどういうことですか?詳しくお話していただけませんか」
 ヒルダも大公の間の座から立ち、ジタンたちに近づいた。
 リンクは、これまで自分が知ったことをすべて話した。自分が世界を救ったことも、すべて。話した
あと、ジタンとヒルダはかなり驚いた様子だった。
「リンク・・・だったよな」
「あ、はい」
「その女神というのは、突然現れたんだよな。そして3人の勇者を集めろと・・・」
「そうですけど」
 少し間があったあと、ヒルダが口を開いた。
「それはおそらく、この世界の光の女神だと思われます。つまり、本当にこの世界は『悪』に狙われれ
ているということ・・・。2000年前の古い書物によると、1人の驚異的な力を持った人間の心が
二つに割れ、光の女神と闇の邪神になってしまった、という伝説があります」
 リンクはポカ〜ンと口を開けたまま話を聞いていた。半分くらい理解できていないのかなとジタンは思
った。
「で・・・それで?」
「はい。その光の女神は、まだ闇の邪神の心を読み取ることができるのだと思われます。その
邪神は、約1800年前に3人の勇者によって倒されました。そして闇の世界に封印された・・・と
いう話です」
 ヒルダは少し間を置いて、小さな咳をした。
「おそらく、その封印したときの魔力が弱かったのでしょう。時間の経過によって封印は解かれ、その
邪神は光の女神の力を遥かに超えていた、ということだと。今度、あなたたちがその3人の勇者となっ
て封印してもらうことにしたのでしょう」
 ジタンはえっ、と声を出した。
「『あなたたち』って、もしかして俺が・・・・・・・・?」
 ヒルダははい、と頷いた。
「そうです。ジタン。あなたがその勇者の子孫ということになります」
「・・・・・何か大変な話になってきたなあ。まあ、とりあえず、シドのおっさんを助けに行くとする
か。リンク、一緒にどうだ?勇者を探すのはそれからでも遅くないだろう」
 リンク少し首をかしげながら、
「え?シドのおっさんというのは・・・」
「ああ悪い悪い。実は俺今、火山に調査に行ったっきり帰ってこないこの国の大公のシドっていう人が
いるんだけど、その人を助けに行ってくれないか、っていう話になってたんだ」
「あ、そうなんですか。わかりました。いいですよ」
 ジタンはその後少し笑ってから言った。
「そんな敬語じゃなくてもいいぜ。これからは仲間だ」
「うん。ありがとう」
 ヒルダは様子をうかがってからジタンとリンクに話しかけた。
「・・・ではリンクにも、夫の捜索をお願いできますか?」
「はい、やります。絶対に見つけますので」
 ジタンは腕を組んで、ヒルダを見ながら言った。
「しかし閉ざされた大陸にはどうやって行くんだ?やっぱり船で行くのか?」
「ごめんなさい。現在は港はやってないんです」
「っじゃあどうやって行けって言うんだよ。あ、ヒルダガルデが・・・っと、あれはおっさんが乗って
って使ってるんだったか。」
 はい、とヒルダは頷いた。
「まさかまた外側の大陸へ行く時みたいに・・・?」
「・・・・・・洞窟を通っていかなければ道はありません」
 ヒルダがその言葉を発した後、ジタンは勘弁してくれと言わんばかりに頭を下にがくっと下げ、仲間
たちにはおなじみの、がっかりポーズをとっていた。
 その後、少し考えた後リンクが口を開いた。
「あの、その洞窟というのはどこに?」と、リンクはおそるおそる訊いてみた。
「ここのリンドブルム城の崖下にあります。最近開かれた道なので、明かりなどは大丈夫なはずです。
これを差し上げます」
 と、ヒルダはもう紙の端がボロボロになっている、『World』と小さくかかれた紙をリンクに手渡した。
 リンクはその地図を眺め、改めて世界地図であることを再確認した。ジタンにも見せると、また溜息
をついて、しぶしぶと地図を眺めた。

                      *

 ヒルダはリンクとジタンを連れて『大公の間』を出て、リンドブルム街内をを移動する手段であるエ
アキャプが停車しているところに着くと、どうぞ、とばかりに手招きをした。ヒルダもエアキャプに乗
った。どうやら、洞窟まで案内する気だったようだ。
 エアキャプが街内に出ることは滅多になく、街外への道は一本しかない。ヒルダの話によれば、城か
ら半径5km以内ならばエアキャプの燃料が尽きることなく往復できるのだという。エアキャプ内では、
3人で雑談をしていた。
「なあ、リンクっていくつくらいなんだ?」ジタンは窓外の空を見ながら言った。
「うーん、10才前後かなあ」
 リンクが言うと、はははっ、と笑った。
「なんで笑うんだよう」
「『前後』ってなんだよ。自分のトシ忘れたのか?まだそんなに若いのに」
「だって、気づいたら僕は森で育ってた。戦死した母親に代わって、デクの樹様に育ててもらったんだ
よ。それでハイラルを救って・・・タルミナってとこも救って・・・」
 それからさらに語ろうとしたところで、ヒルダが質問した。
「デクの樹というのは・・・もしかして、コキリの森ですか?」
「あ、はい。何で知ってるんですか?」
「書物に載っていました。別名で禁断の森というそうですね。としたら・・・」
 そこまでヒルダが言ったあと、ガタン、という大きな音とともに、エアキャプが止まった。

                      *

 3人とも、運転手も驚き、あたりを見渡した。すると何と、目の前には巨大なドラゴンが立っていた。
 リンクとジタンは顔を合わせ、ジタンがコクリと頷くと、リンクも同じように頷いた。
「ちっ、邪魔しやがって・・・!」ジタンは二本の短剣を取り出した。そしてクルリと剣を回し、手に
握った。
「ジタン、何でこんな強そうな魔物がこの辺りにいるの?」
「知らねえよっ」
 ドラゴンは炎をはきだした。ジタンはさっと身をかわし、リンクも盾で防いだ。その後、ジタンが愛
用している短剣『ダガー』でドラゴンを斬りつけた。リンクも弓を構え、矢を放った。だが、ドラゴン
はその矢を跳ね返した。そのまま折れた矢は地面に突き刺さった。
「くそ、こいつかたい・・・ウロコだなぁ」リンクは弓をしまった。
「オレがさっき斬りつけたときは背中だった。おそらく、背後が弱点だ」ジタンはダガーを構えながら
言った。
 すると、ドラゴンは尻尾を上げた。力を溜めている。どうやらエアキャプが標的だと確信したリンク
は、再び弓矢を構え、横っとびで移動しつつドラゴンの背後に回った。
 リンクが背後に回った瞬間、ドラゴンは尻尾を素早く動かした。パワーが溜め終わったのである。
「そうはさせないぞっ!」
 リンクはドラゴンの背中に向かって矢を放った。見事に命中し、ドラゴンは尻尾を止めた。かなり痛
がっている様子だった。それを見て、リンクは複雑な気分になった。
 だが、こいつを倒さなければ確実にエアキャプも破壊され、自分、ジタン、ヒルダガルデ妃、エアキ
ャプの運転手の4人が死んでしまう。
 ためらっている暇は無かった。ジタンは2つの剣を駆使して素早く斬りつけ、リンクも矢で援護した。
しかしここで、ドラゴンが力を振り絞って尻尾を上げる。するとその瞬間、リンクに尻尾が命中した。
「うあっ!」その声とともに、リンクは背後にあった岩に叩きつけられた。
「リ、リンクッ!おい!」するとジタンにも尾が向かい、叩きつけられたリンクに気を取られていたジ
タンは、吹っ飛ばされ、岩に叩きつけられてしまった。大きな音と共に、倒れこむ。
「リ、リンク・・・だいじょうぶ・・・か?」
 返事がない。どうしたのだろうか。たぶん気絶しているのだろうと判断したジタンは、前からずんず
んと近寄ってくる竜を眺めていた。
「く・・そ・・・・。オレがこんな簡単にやられちゃうなんてな・・・」
 ジタンが諦めかけたその時、左の方からまばゆい光が襲ってきた。何だろうと思うと、それはドラゴ
ンに向かって手で三角の形を作っていたヒルダだった。
「今すぐその竜に剣を突き刺してください。今なら急所を覆ったウロコを貫通させて攻撃することがで
きます」
 どういうことだ、と問いたかったが一刻を争う事態。ジタンは力を振り絞って立ち上がり、ドラゴン
に近づいた。
「頑張ってください。あなたならできます」
「わかってる・・・・さ!」
 その声とともに、ジタンは最後の力を振り絞ってダガーを刺した。するとドラゴンは悲鳴をあげ、少
し暴れた後、すぐに倒れてしまった。
「はあ・・・はあ・・・!・・・リンク!気づいたか!?」
 リンクは意識を取り戻したらしく、ゆっくりと立ち上がった。まだダメージがあるようで、頭に手を
やっている。
「あ・・・あのドラゴンは?」
「安心しろ。倒したさ。それよりもリンク、身体は大丈夫か?」
「うん・・・。まあなんとか」
 リンクがまた頭をさわっていると、ヒルダとエアキャプに乗っていた運転手がかけよってきた。
「二人とも、大丈夫でしたか?」
「俺は大丈夫さ。まあ、リンクも大丈夫そうだ。ちょっと休憩したら行こうぜ」
 ジタンが締めくくった後、全員はエアキャプに戻って行った。

                      *

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