一人の少年は、草原を歩いていた。 これだけ探してもいないのならば、もうどこにもいないのだろうか。それとも、もう誰かのパート ナーについたのか。いや、そんな訳は無いと少年は無意識に首を横に振った。あのかけがえの無い親 友を探してきて、これまでどれだけ時間をかけたかさえも彼にはわからない。寒い風が彼の肌を突き 刺すかのように強く吹いていた。少年は今日も野宿をする。ちょうどよい木を見つけたので、木に もたれかかってかかって寝ることができる。時計の短針はすでに午前0時を過ぎていた。ありがたい ことに、風も今はおさまっている。 「よし、寝よう。」 そう一人で呟いた瞬間、目の前がぱっと光った。 「聖なる力を持つ勇者を集め、そして悪に立ち向かいなさい。」 少年は驚いた。言葉、姿、すべてに。この人は何を言っているのだ――――。 「リンク・・・・ですね。」と訊かれ、ただ呆然と立ち尽くしていた彼は「はい」としか答えること ができなかった。リンクは頭の中で考えを巡らせた。自分はもう夢の中なのか。それとも、現実な のか。彼は頬を指でつねった。「痛っ」と小さい声で言うと、その女神とも言える女性にくすくすと 笑われた。 「これは夢でもありません。幻でもありません。今、世界は暗黒の世に変わりつつあります。それを あなたたち勇者が止めるのです。」と女性は言った。 さっきまで呆然と立っていたリンクは、ようやくしゃべれるようになった。 「それはどういうことですか。暗黒の世?ガノンドロフは・・・・・・・」と言いかけた時、彼の言 葉が止まった。七年後で封印したと言ってもいいのだろうか。となぜか迷った。 「あなたが七年後のハイラル王国で、魔王ガノンドロフを封印したのは知っています。七賢者も、こ の国の王女、ゼルダ姫も・・・・・・」 リンクははっとした。この人は何者だ。 「そうなんですか・・・。で、話題を切り換えるけど、その勇者たちは今どこにいるの?」なぜかリ ンクは、七年後にガノンドロフを封印したことを知っている理由を訊かずに次に質問に移り、少し後 悔していた。 「一人は、北の大陸、以前までは『霧の大陸』と呼ばれていた地方にある、リンドブルムにいます。 もう一人は、その大陸の東側にある小さな島の町、ルークスタウン」 「その北の大陸に行くには?」 再び女神は口を開いた。 「ここはもうハイラル。ここから西へ向かえば、ハイラル港があります。今日の午前九時三十分ちょ うどに船が出ます。それが北の大陸への船です」女神はやさしい口調でリンクに話した。 自分はどうすればいいんだろう。この女神の言う通りにまんまと従い、それが自分を追い込む状況、 つまり死に追いやられる状況にでもなったらどうしようと考えた。つまりこれはワナの可能性がある ということだ。 実際に、『時の勇者』のウワサはこのあたりには広がっていると知った。このハイラルには三女神 『ディン』、『フロル』、『ネール』が残していった聖三角、『トライフォース』をその手に収めて、 時の勇者が現れ異世界で魔王を封印した、という話は一般市民にも通用しないことはない。だからガ ノンドロフの手下がその情報を入手して、僕を狙う可能性がある――――。 彼はやっと我にかえった。そんなこといくら考えてもキリがない。とりあえず話を訊こう、と彼は口 を開いた。 「その『悪』とは何なんですか。また新たな魔力をもった奴がこの世界を・・・」 女神は再び答えた。 「詳しいことは話すことができません。ごめんなさい。しかし、このままでは世界は闇に閉ざされ、 滅ぼされてしまうでしょう」女神は少し頭を下げつつ言った。 今もう一度よく考えてみると、手下がこんな姿で出てこれるはずはない、とリンクは思った。空中 に浮いているし、なによりも突然どこからともなく現れたからだ。思い返してみると、なぜ自分があ んな考えをしたのかわからなくなったくらいだった。 「わかりました。じゃあ、とりあえず北の大陸へ向かえばいいんですね」 はい、と女神は答えた。 「この世界の未来はあなたたちにかかっています。どうか、世界をお救いください」 そう言い残すと、女神は空中へと消え去っていった。 リンクが目覚めると、ちょう八時五分だった。ここからハイラル港へは遠くない。 リンクは自分の左を見た。女神が残して行ってくれたコンパス、地図、フリーパス、お金のルピー がある。 彼は昨日のことを思い出していた。なぜ突然現れたんだろうとか、その『悪』とは何なのか、いろ いろ考えていた。でも、いくら頭を使っても心当たりがない。ガノンドロフは確かに封印したはずだ。 それとも、全く別の何かか。そう思いつつ彼は立ち上がり、コンパスの「W」の文字に体を向け、歩 き始めた。 しかしこの地図はかなり新しいもののようだ。地図の左下には『ハイラル国発行(新版)1/15』と書 かれている。 彼は1月という数字を見てうんざりとした。すごく寒い。まあ確かに、こんな真冬に半そでで歩い ている少年などいるはずがない。しかし、この服装は彼にとって思い入れがかなり深いものだった。 コキリの仲間たちはどうしてるんだろうか。サリアは元気かなあと、思いつつあった。 そう思っていると、早くももうハイラル港が見えてきた。港の入口に『ハイラル港 西』と書かれ ていた。リンクは時計を見た。時計の針はまだ八時二十分を指していた。まだ時間はある。 ふと周り見渡すと、4,5ほど、喫茶店が並んでいる。そこの中の店に入った。『ハイラルコーヒ ー』という店だった。彼はもちろんある程度お金は所持していたので、こういうことに使うことはよ くあることだった。 「いらっしゃいませー!」と、元気な店員の声が聞こえてきた。「あ、一人です」とリンクは答え た。案内され、席についた。運が良かったのか、ちょうど海が見渡せれるところだった。そういえば船に乗るのは初めてだな、と彼は思った。出国の時に必要なフリーパスもちゃんと置い てってくれたから、面倒くさい手続きもしなくていい。 数十秒間海を眺めていると、何を注文するか訊かれたので、リンクはあせった。そういえばまだ何 も決めてない。彼はいそいでメニューをひっつかみ、後ろのメニュー覧を見た。『朝食セット』とあ ったので、これにします、と彼は伝えた。飲み物はメロンソーダにしておいた。 しばらくするとトーストにバターを塗ったものと、目玉焼きが出てきた。写真も見ずにとりあえず 名前を見てたのんでしまったので、心配だったが安心した。メロンソーダも来た。この炭酸が、リン クの眠気を吹き飛ばした。 朝食を済ませると、リンクは店を出た。10ルピーだった。まあ、これくらいかな、と少し納得し た。 腕時計を見ると、もう九時五分だった。結構、いや、かなりのんびりしてしまったようだった。 * 金髪のしっぽのある青年は、ところどころもろくなっているベッドで寝ていた。しかも2段ベッド の上で。しばらくするとジリリリリリリン!と大きな音が鳴った。青年が半分目を開けると、時計は 九時十分を指している。 「さあて、起きるかあ」 青年は少しあくびをして、外に出た。この街の空気は飛空挺が飛び回っているにもかかわらず、か なりきれいなものだなあと改めて感心した。 「おいジタン、やっとお目覚めか?」 青年、ジタンは声の聞こえた方を向いた。『タンタラス』の仲間、ブランクが立っている。 「うるさいな。ブランクは起きるのが早すぎるぜ。大体、休日に六時に起きて街を歩いている人間な んてリンドブルムじゃあ全然見かけないぞ」ジタンは言い返した。 「ははは、まあまあ。そこまでムキになることはないだろ。それにお前、休日に六時に起きて街を歩 いている人間なんて全然見ないなんて言っているが、実際に六時に起きて見てないじゃねえか」 ジタンはふん、と鼻をならした。 「まあいいや。そういえば新しい飛空艇はどうなんだ?シドのおっさんにどこら辺までか訊いてきた のか」ジタンは背伸びをしながらブランクに話しかけた。 「もうとっくに完成したって言ってた。4号は珍しく失敗しちまったしな。慎重に作ったみたいだぜ」 「ああ、あの設計図のミスでところどころ間違ってて結局作れなかったってやつか。ボスからきいた よ」 ジタンは実際にタンタラスは抜けていたが、タンタラスの親方バクーのことはまだボスと呼んでい た。育ての親だけあって、たぶん、その呼び名から離れられないのだろうとブランクは思った。 「ヒルダガルデ5号機、か。今度の船体のカラーは3号機のように黒らしいよ」ブランクは、あの銀 竜戦を少し思い出していた。 「確か、3号機は船をうまく利用して作ったんだったよな。確か・・・ブルーナルシスだったっけ」 「そうそう。アレクサンドリアの船だった」 「そういえば、ブランクなんでここに来たんだ?用もなく来た訳じゃないだろ。」はっとした感じで ジタンは質問した。 「ああそうだ。ボスから訊いたんだが、城に来てほしいらしい。午後12時にだ。ここでは話せない が、お前に依頼がある」 「はあ?オレに依頼?」ジタンは思わず声を高くしてしまった。 「俺達じゃ無理なんだ。ジタン、お前に片づけてほしい」 「まあ内容にもよるけど」そう言って彼は腕を組んだ。「午後12時に行けばいいんだな?」 「ああ。頼むぜ」そう言い残してブランクは走り去った。 「さ、それまでの間何しようかな・・・」彼はそう呟いて、タンタラスのアジトの隣に建てた、自 分の家に入って行った。 * 全身がほとんど緑服で、剣と盾を背中に下げた者はそういない。リンクは確信していた。今、剣と 盾を持ってこの定期船に乗船しているのは自分だけだろうと思っていた。相変わらず海の景色はいい。 カモメもたまに飛んでいき、鳴いて去っていく。 少しリンクは船酔いを感じたので客船室に入ることにした。 船室に入ると、そんなに人はいなかった。いや、そもそも一番初めの船だったから、あまり人が乗 っていないのかもしれない。 そんな事を考えていたら、船がガダーン、と音を立てて急停止した。もちろんリンクは吹っ飛ばさ れ、船室の壁に叩きつけれた。他の客も同様だ。だがリンクは平気だった。 急いで外に出ると、そこには巨大なイカのようなモンスターがいた。 「何だ、お前は!」リンクは叫んだ。 「お前こそなんだ。チビめ。俺様は気分でこの船を止めただけだ。」そう言い、イカは足でリンクを 吹っ飛ばそうとした。ガン!と音をたて、イカが見ると、足がついた先は盾だった。 「ふふ〜ん。子供だからってなめてもらっちゃ困るな。僕は相当な剣の使い手だぞ。」と、ちょっと 挑発気味にリンクは言ってみた。 「何だと?」イカはかなり不服そうに言った。 「ちょい!」リンクはイカの足に剣を振り落とした。ストン、という音がした。「どうだ!これでイ カの刺身が作れるぞ〜」リンクは再び挑発した。 「貴様・・・・・くたばれっ!」そう言い放ったと同時にイカの足から黒いビームが出た。 ビームはリンクの方向へ一直線へ進んでいる。 「やあっ!」と、リンクは剣を構え、回転した。彼の得意技の回転斬りだ。目にも見えぬ速さで回転 した剣はそのビームを鏡のごとく跳ね返し、イカに命中した。命中した数秒後、イカは海に落ちてい た。おぉ〜っ!とか、すごい、などの歓声が上がった。さすがにリンクも、これだけの簡単な追い払い をやっただけでも褒められるとうれしい、という感じだった。リンクは恥ずかしそうに頭をポリポリ とかいた。 しかしリンクはさっきのイカが少し心配だった。自分の放った技が自分に返ってくるということは 予想外だっただろう、とリンクは思った。 いや待て、とリンクは考え直した。確かあのイカは、確実に魔力を持ったビームを放った。魔力を 持っているという事は回転斬りで跳ね返した瞬間に彼の手に伝わったのだ。もしかして、あの女神の 言っていた『悪』があのイカを凶暴にさせたのだろうか。などと、いろいろ考えを巡らせる。 そんな事を考えているうちに、船は船着場についていた。リンクは船を下り、腕時計を見た。現在 は十時二分。ここからリンドブルムへは徒歩で四十分もかかる。この地下にはありがたいことに地下 鉄が通っているので、利用することにした。電車に乗ってからも考えていた。やはりあのイカは確実に魔力を持っていた。このままではやはり、 あの女神の言ったとおり世界は滅ぼされ、その『悪』に支配されてしまうだろうなと思った。まあ、 変な話、あのイカに会えたことは少し感謝していた。そうでなければ、確信を持つことができなかっ たからだ。 「リンドブルム〜〜。リンドブルム〜〜。終点〜〜。リンドブルム〜〜。」 アナウンスが聞こえた。急いでリンクは電車を降り、階段を駆け上がって行った。急いでリンドブ ルムに向かって、勇者を探さなければ。 *