* 「なあ、腹、空いたな」 ジタンがリンクに言った。腹を押さえながら、不機嫌そうな顔を作っている。 「うん」 同意したリンクだが、実はそこまで空腹感は無かった。 ふとリンクは、今何時なのか少し気になった。時計塔などを探してみるが、ここには無いようだった。 ここは、高い建物がない代わりに、酒場や、武器屋もあれば宿屋もあった。 「ねえ、ここはハイウォークっていうらしいけど、僕達の時代だとどこにあたるんだろう」 「どういうことだ」ジタンが訊き返した。 「だから、僕達の時代だとどこの場所なんだろう、ってこと」 「ルークスタウンじゃないのか。この先に地底神殿があるんだろ」 なるほど、とリンクは合点した。 いままで都市の景色を眺めていたクラウドが言った。 「それにしてもえらい話になってしまったな。過去を救う、のか」 「ここが過去だなんてな……。ここで邪神を倒さなければ、未来が無くなる………はぁ」 いきなり重い使命を告げられたためか、ジタンは少し自信をなくしたようだ。そんなジタンに、リンク が明るく声をかけた。 「そんなに悩まなくてもいいと思うけど」 「なんでだ」 「だって、未来では……じゃなくて、僕達の時代では過去が一度勇者たちに救われてることになってる。 だから、過去が救えるって言うのはもう既定の事なんだよ」 ジタンが眉を寄せて行った。 「どういうことだ。ちゃんとわかるように説明してくれ」 「えーと……。簡単にいえば、何があっても邪神は倒せるということ。歴史はどうあっても変わらない。 だから……」 リンクは自分でも自分が何を言っているのかわからなくなってきた。 つまりリンクが言いたいのは、現代では、一度勇者たちによって過去が救われている。それは事実であ り、その過去はどうあっても変わらない。"過去を自分たちが救う"というのは、決まっているだというこ とで、どんな失敗をしようとも過去は必ず救えるはずだ、というのがリンクの考えである。 「甘いな」リンクの主張を一言で吹き飛ばしたのはクラウドだった。「リンク、『パラレルワールド』 という言葉を知ってるか?」 少し間があった後、 「?……知らないけど……」 「多次元宇宙、とでも言おうか。世界の歴史は一つじゃない。俺達の世界と併存されていると思われて いる異次元世界だ」 「……………」リンクは無言のまま。 「つまり、わかりやすく言おうか。俺達は大事な鍵を握っているんだ。ここでの行動次第で、もしかし たら別の未来が生まれてしまうかもしれない」 「……どういうこと?」 「ここで俺達が邪神を倒すことに失敗してしまえば、新しい未来が生まれた新世界、パラレルワールド が生まれてしまう」 う〜ん、とジタンがわざとらしく唸って見せて、 「……なんとなくクラウドの言いたいことがわかる……気がするな」ジタンは頭をかきながら言った。 「まとめると、だ。俺達がいた時代は、過去に俺達が邪神を倒して救った時間軸の世界なんだ。まあ、 たまたま運が良かったんだろ。ここで生まれる可能性のあるパラレルワールドはたった二つ。『邪神が 封印された世界』か、『邪神が封印されなかった世界』か」 リンクはなおも目を丸くしている。 「オレから話すよ。リンク、いままでの話はわかるか?」 リンクは否定の動作。 「クラウドと同じようなことを言うが、お前の言ったことは違うんだ。過去を救えるのは既定事項なん かじゃない。オレ達がもしも邪神に負けてしまえば、時空が分岐されてオレ達の知る過去とは違った過 去が生まれてしまうんだ」 「……ふうん」 まだ少し理解できていなかったのか、リンクは自信無く返事をした。 「そうか……じゃあ、手抜きは厳禁だなあ」 リンクは何かをはらうように手をパンパン叩いた。 大きく土地を支配していたその建物は、ジタンとリンクの記憶にあったものそのままだった。 「全然外見は変わってないみたいだ」リンクは神殿を見渡しながら言った。 「まあ、こっちのほうがやっぱ新しい感じはするけどな。それにしてもこの神殿はいつ建てられたんだ ろ」 「ロフェシーの言ってた通り、ここらに人は全然いないな」 クラウドはあたりを確認した。都市ハイウォーク郊外にある大きな地底神殿。平原の真ん中にどんと 建てられていた。この神殿がたてられた理由は、恐らくマジカルミラーを守るためだったんだろうとク ラウドは思った。そのためにこの神殿はあったのだ。 だがジタンの言ったとおり、いつ建てられたのかは不明だった。 地上の建物自体はそこまで大きくはないが、とにかく地下にある広間が大きいのである。ジタン達は 少しだけ警戒をしながら神殿に入った。 「例の仕掛けだな、これ」 ジタンが見下ろすさきには、スイッチがついていた。まだ錆びておらず、真新しい。軽く押せばすぐ に"仕掛け"が発動しそうだった。 「確かこれを押せば、神殿が起動して石の扉が開き、神殿内部へ侵入できるというものだったよな」 クラウドがジタンに確認する。 「ああ。よし、押すか。準備はいいか? リンク」 「うん」 「よし、じゃあ」 ジタンはスイッチを押した。神殿が激しく揺れだして、周りの柱などが崩れ始めた。 「オレから行く!」 一度入ったことがあるとはいえ、三人はこの揺れには驚いていた。ジタンは掛け声をあげて、石の扉 の向こうへ滑り込んだ。ジタンは穴へ落ちて行った。 リンクは行くのをためらっていた。うまく穴へ向かって駆け出せない。 「リンク、このままじゃ下敷きになる、早く行け!」 リンクはうなずき、覚悟を決めてスライディングの要領で滑り込んだ。ジタンと同様に穴へ消えた。 その後クラウドも勢いをつけ、穴へ入った。 神殿内部はなんとなく不思議な空気が漂っていた。ジタン達は現代人なのだからか、古代の雰囲気を 感じることができた。 「ここでオレ達はクラウドに助けてもらったんだよな」 広間は、現代のものとはさほど変わっていなかった。変わっていたものと言えば、飾ってある剣など が錆びていないことだ。 神殿内には青銅で作られたような陶器、銅像、剣がある。リンクは飾ってある剣に近づき、とってみ た。 「ねえ、この剣使えるような気がするけど」 少し長めで、騎士が使うような剣だったが案外軽いつくりだった。とりあえず振ってみる。剣に夢中 になっているリンクにジタンが声をかけた。 「まさか。飾り物の剣だろ。ちゃんと斬れるとは思えない」 リンクは剣を振る動作を止め、ジタンのほうを見た。 「でも、持ってないよりは良いと思うけど」 「………」 無言でジタンが歩き、リンクと同様に剣をとった。剣を取る時に少しだけ剣特有の金属音がした。ジ タンは剣の刃の部分を軽く持つと、自分の手に少しだけあててみた。 「ん?」 手には傷がついた。つまり、この剣は斬れるのだ。 「……なるほど、これは使えそうだな」 「でしょ?」 ジタンが認めたことにリンクは少し嬉しそうな顔をしながら、剣が飾ってあった近くにあった鞘に剣 をしまい、手で持った。 そんな二人のやりとりを見ていたクラウドは、壁に近づきながら言った。 「それにしても不思議な空間だ。これは………? 何の画なんだろう」 壁をさわってみると、サラッ、という砂のような音がした。だが、ジタンはそんなことどうでもよか ったようで、 「クラウド、行こうぜ。時間はないんだ」 いつの間にか剣をとって近くに来ていたジタンにクラウドは話しかけられていた。 クラウドはもう一度壁画のある壁をさわってから、 「そうだな。よし」 クラウドが歩き始めようとした時、リンクが剣を差し出してきた。 「クラウド、この剣」 「ああ、すまない」 クラウドはそう言って、しっかりと剣を受け取った。そうしてから三人は、次の部屋へと歩きはじめ た。 * 都市ハイウォークにある軒家。ロフェシーの家。 「ジタンとリンクとクラウド、大丈夫かな……」 ロフェシーは一人、三人を心配しつつ井戸から汲んできた水で紅茶のカップを洗っていた。 「……あ!………」 カップを洗っていたロフェシーは、何かに気づき、無意識に顔を上げた。 「しまった……! 三人を未来に帰すための賢者……忘れてたっ!」 ロフェシーは水とカップを放置し、急いでテーブルに座った。ガタガタ、とイスが床の木にひっかか ったが、無理矢理引っ張った。 「……ふう、落ち着いて」 胸を手でおさえ、精神統一をし始めた。ロフェシーはテレパシーで未来の人物を会話を交わすことが できる。現代にいたジタン達ともこの方法で会話をしていた。 「(誰がいるだろう……。魔力を持つ人………ガーネット女王がいいかな……うーん………。でもエネ ルギーがまた別に必要だな……)」 しばらく目を閉じてみた。彼らを未来へ帰すための魔力を与えるための人物を心の中で探していた。 ロフェシーは今までジタン・リンク・クラウドの行動を過去で見守っていたが、彼らの知り合いで妥当 な人物が見つからない。 「(あ……!あの子………大丈夫かもしれない)」 ロフェシーの心に浮かんだイメージは、緑髪の少女だった。 「あっはは、うん、そうだね」 ここはハイラルに存在しているコキリの森。1年前にデクの樹の子供が生まれ、みんなはまだデクの 樹の子供と会話するのに夢中だ。 「あっ……?」 サリアは不意に声を漏らした。 「どしたの、サリア」 森の仲間が顔を覗き込んでくる。いままで楽しく話していたサリアの表情は少し不安の色が浮かんで いて、サリアは空を見上げたまま動かない。 「え…いや、なんでもない。ごめん、ちょっと」 サリアは仲間に断ってからその場を離れた。駆け足で、自分の家の裏に隠れた。 「……誰?」 『私は過去にいる者です。あなたに協力してもらいたいことがあるのですが……』 「えっ……過去…?」 『詳しいことは過去で話します。どうか、リンク達を助けるためにも』 「えっ…リンク? リンクがどうしたの?」 サリアは外部からの音が耳に入らないように耳を防いでいた。謎の声は頭の中に直接流れてくるので 耳を防いでもしっかりと聞こえてくる。 『過去へ来てくださればすべてお話しします』 何かの詐欺師に誘導されている感覚がしたが、サリアは『リンク』というフレーズが気になっていた。 「リンクが……リンクは過去に…?」 『ええ』 「………ええと……よくわからないけど、うん……じゃあ」 『いいですか』 「はい」 「ふう……良かった」 ロフェシーは過去への意識連結を一度解いた。もう一度自分を落ち着かせてから、過去へ意識連結を する。もちろん、サリアを過去に送るために。 ロフェシーは時空魔法を唱えた。 森に居たサリアの意識は一瞬のうちに消失し、その直後また意識が戻った。 「………ここは……?」 サリアはあたりを見回した。ここはコキリの森じゃない。本で見たことがあるような、古そうな建物 がたくさんならんでいるのが目に入った。 そして、目の前には大きな家がある。ドアをノックしてみると、ゆっくりとドアが開いた。 ←第四章 救済−3 第四章 救済−5→