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「まずこの時代のことを教えるわ。あなた達はここが過去であると信用していないみたいだけど、ここ
はあなた達の世界の過去。ここは1800年前で、紀元前208年ってところかしら」
「き……紀元前208年……」
リンクは目を丸くして言った。ここが本当に過去であったとしてもそこまで時間を遡ったとは思って
いなかったのである。
だがよくよく考えてみるとそんなはずがなかった。この時代の建物そのものが古すぎる。鉄筋コンク
リートとかも埋め込まれてなさそうだし、地震が来たらすぐに崩れそうだ。もちろんリンク達がいる時
代では建設については厳しい。耐震強度を表す書類を作成したり、その他うんぬんだ。
「驚いた? まあ、それもそうよね。あんな豊かな時代から、こんなところに飛ばされたんだから」
一方クラウドは自分の予想が当たっていた事に自分でも驚きつつあった。だがさらに、これから何を
告げられるかわからないという一種の恐怖感も覚えていた。
「ここはあなた達の時代、A.D.1592から1800年前の世界。ここでは、ある人物が暴れてい
るのよ。リンク、何かわかる?」
いきなり問いかけられたからか、リンクはなぜか少ししどろもどろしながら、
「………1800年前」
と呟いた。
「そうよ」
「ねえジタン。ヒルダさんに話してもらったの、覚えてる?」
ジタンはイスをゆらゆらさせながら手を後ろにやり、上を向いて考えるポーズをとっていた。そうい
えば、久しぶりにリンドブルムに行った時に、1800年前がどうのこうのという話を聞いた覚えがあ
った。
「ああ。覚えてるさ。それがどうした?」
「どうしたもなにも、大変なことだって。確かヒルダさんの話だと、邪神が初めて封印されたのは18
00年前。そして今いるのは1800年前。ここの世界では邪神が封印されていないんだ……そうだよ
ね?」
「その通りよ。200年前に一人の人間が二人に分れた。もう一方は封印されていて、もう一方は邪神
となって今、世の中を滅茶苦茶にしているの」
ここでクラウドが話を止めた。
「待て。200年前だって? 俺達の時代からすると2000年前、か。もしかしたら、邪神は………」
「………そう。邪神は200年間ずっと暴れっぱなしよ」
三人は、話のスケールの大きさに驚くばかりだった。もはや『驚く』という単語の意味を超越した意
味の単語がないのかと思ったほどだ。
ジタンはイスをゆらゆらさせるのをやめて、腕組みをした。
「……俺達のやることはわかった。そうだ。邪神を封印すればいいんだろ?」
「単刀直入に言うとそう。でも、まだ話を聞いて」
ロフェシーは小さな咳ばらいをしてから再開した。
「私が言ったことを一旦まとめるわ。あなた達は今、1800年前にいる。そしてこの時代から200
年前に邪神が生まれ、暴れ続けているのよ。まとめ、終わり。続きを話すわ」
ロフェシーが続きに戻ろうとしたところで、やかんが沸騰した音が聞こえた。ロフェシーはなぜか熱
いはずのやかんを素手で取り、紅茶を作りはじめた。
「告白しておくわ。実は邪神……あいつが生まれる前の人間って言うのは……私の弟子と言うか……そ
ういう関係なの」
「えっ!?」素早い反応で、なおかつ短く驚いたのはもちろんリンクだった。
「201年前。"あの子"は、自分の存在価値などあるのか、人間が生きている意味はあるのか、なんて
ことを思い始めたらしいわ」
「……少し哲学的だな。いくつだったんだ?」訊いたのはジタンだった。
「そうね…十四才くらいだったかしら。でも、精神はすでに大人だったわ。"あの子 "は驚異的な力を
持っていたのよ。それで私の所に来て、修行させてほしいって願い出てきたから、鍛えてあげた。鍛え
たのは、前世のそのまた前世の、そのまた前世の私」
「前世だって?」微妙に首をかしげながらクラウドが訊き返した。
「そう。前世。私は生まれ変わることができて、その時の私は確か男だったはず」
「お……男…」
前世という話が出てきた時点でリンクは混乱していたが、性別まで違っていたのに驚いていた。
ロフェシーの外観を説明しておくと、髪は長くて色は落ち着いた黒。服装はごく普通であり、スカー
トをはいている。
ロフェシーは紅茶を作り終え、リンク達の前に置いて自分も席についた。
「私のせいと言ってもいいわね。その子の狙いを知らず、私はやすやすとあの子を鍛えてしまった。2
01年前に修行しにきて、そしてその1年後に……」
「暴れはじめた……ってわけか」
「そうなの。私は死んでも後世に記憶が共有されるから、あの子のことは忘れていないわ。邪神となり、
暴れているのは私のせい、ということも忘れてない。すべての原因はわたし」
少しうつむいてしまったロフェシーを、リンクが励ました。
「……そんなに自分を責めない方がいいよ。僕達がなんとかするからさ」
その言葉を聞いたロフェシーは、ゆっくりと顔を上げて話をつづけようとした。
「ありがとう。リンク」
「なあ、ちょっと質問があるんだけど」ジタンは紅茶をすすってから言った。「200年後に暴れるこ
とがわかってたんなら、鍛えなけりゃよかったじゃないか。未来がわかるんだろ?」
「いいえ。私に神のような能力が宿ったのは、つい最近なの。私は突然、過去から未来までのことがす
べてわかるようになってしまった。原因はわからない。でも、たぶん私の使命は、あの邪神を止めるこ
と……。だからあなた達を未来から呼び、過去を救済してもらいことにした。だいぶ無理やりだけどこ
れで良かった、と思いたい」
紅茶をすすったあと、ジタンがまた質問をした。
「話が少し変わるけどさ、なぜ今までオレ達をさっさと過去へ送らなかったんだ? オレ達が三人集ま
った時点………、ルークスタウンの事件の時だな。過去へすぐに送り込めば良かったじゃないか。別に
三つの秘宝を集めたタイミングじゃなくても、過去へ送れただろ?
「いいえ。私が人間をタイムトラベルさせるには、膨大なエネルギーが必要なの。だから、あなた達が
強大なパワーを持つ三つの秘宝を集めた時にタイムトラベルさせればいいかな、と思って少しだけ待っ
てたのよ。あなた達が三つ集めるっていうことは未来が見えてて知ってたから」
少し間があった後、リンクが口を開いた。
「でも何で、ロフェシーさんにそんな力が宿ったのかな」
「それは恐らく、この世に存在する全知全能の神が、私にすべてを片づけてほしいと思ったからだと思
うわ」
「全知全能の神、ね。でもロフェシーはさ、前世の記憶が後世に共有されるって時点で凄いじゃないか。
実質死んで無くないか、それ」ジタンは静かに角砂糖を入れながら言った。
「それには私もわからない。そもそも何でわたしに前世とか後世があって、記憶が共有されるかもわか
らない」
「……こんな感じだけど、理解してくれた?」
「大体は」クラウドは指で机を軽くたたきながら言った。
「…ん? 待てよ」
ジタンはまた何かに気づき、ロフェシーに確認するように質問した。
「あのさ、こっちの時代……西暦……なんだっけ。まあいいや。現代だと、もちろんこの邪神との戦い
は記録として残ってる。本まで書かれてるくらいだからな。そこには1800年前に封印されたと書いてあ
る。学者とかによって考察は色々だが、1800年前というのは確実だと言われている。と、いうことは…
……もしかして」
ジタンはリンクを見た。リンクはジタンを見ている。
「な……何、ジタン」
「ほら、気付けよ。ここまで言ったんたぞ、オレは」
「わかんないよ。ジタンが言って」
はぁ、とジタンはわざとらしくため息をつき、
「ったく……鈍感な奴だな。つまり……現代に存在している古代の書物に書かれた『三人の勇者』って
いうのは、オレ達の事……なんだよな」
「そういうことになるわね」ロフェシーはあっさりと肯定した。
リンクはもう一度、初めてリンドブルムに来た事を思い出していた。あのヒルダの話に出てきた三人
の勇者。それは自分たちであり、世間では大昔の人物となっている。だが、自分達は未来からとんでき
ただけ。大昔の人物じゃない。なぜなら……もう、頭がおかしくなりそうになってくる、とリンクは片
手で髪をぐっとつかんだ。
「皮肉な話だ。その勇者っていうのは気になっていたが、まさか俺達とはな……。と、いうことは、こ
こで確実に邪神を封印しなければ世界は崩壊し、俺達はおろか未来まで生まれなくなってしまう……と
いうことか」
「そういうこと」ロフェシーは立ち上がり、全員が飲み干した後の紅茶のカップを運んだ。後で洗うら
しい。
「じゃあ、本当の本題に入る。一応訊いておくけど、助けてくれる……のよね?」
「もちろんさ。ここで助けなけりゃ、世界が崩壊するんだろ?」調子よく答えたのはもちろんジタンだ
った。
「ありがとう。具体的な事を教えるね」
ロフェシーはいろいろ特殊な力を持っているようだったが、口調は実に普通の元気な女性だった。ど
ちらかというと綺麗な人、というイメージをリンクは持っていた。
「邪神は、スカイタワーっていう塔にいる。あなたたちの世界の……」
「大空の塔、か」
「そう。大空の塔は、この時代ではスカイタワーと呼ばれていたわ。……ああ、そうだ」
「?」
「肝心なことを忘れてたわ。まずあなた達がこの時代の言語をわかるようにしないと…!」
ロフェシーは突然、力を入れ始めたようで、目を閉じている。小声で呪文を唱えているようだったが、
何を言っているのかはわからなかった。
直後には手をジタン達に向け、なおも何かを唱えていた。すると、ロフェシーの手のまわりが青く光
り出し、光速のような速さでジタン達の頭に突き刺さるようにぶつかった。
その瞬間、立ちくらみのような感覚がジタン達を襲った。ぐっ、と鈍い声を上げてクラウドは頭を押
さえ、ジタンは反射的に目を閉じ、リンクはクラウドと同じアクションをとった。
「うっ…なにす……」
「ごめんごめん」謝り方は少し軽い感じがしたが心から謝っていたようで、「これしか方法がないの。
でもそのかわり、見て」
「見て、と言われてもまだ……」
三人はなおも不快感に襲われていたようで、それ以上言葉が出なかった。何を見ればいいのか気にな
ったが、今はそれどころではかった。
数分後、三人の気分が治った後にロフェシーは再び何かを提示した。
「これを見て」
ロフェシーは本を差し出していた。『時空超越論(上)』と書いてある。
「……見たのはいいが、どうすればいいんだ?」クラウドはロフェシーと本を交互に見ながら言った。
「この本を見て、文字が読めればそれでいいわ。この本はこの時代のもので、あなた達で言う古代文字
で書かれてるから」
ロフェシーはその比較的薄い本をテーブルに置いた。紙質は現代の物とはかなり違っていて、これを
未来に持って帰ったら歴史マニアとかに高く売れそうだとジタンは思った。
「こんなんでもうオレ達はこの時代の言葉がわかるのか?」ジタンは部屋を見回しながら言った。何か
古代文字で書かれているものは無いのか探していたのだ。
「不思議だなー」などと呑気に言っているのは頭を軽く叩いているリンク。クラウドは無言だった。
「まあ、外に出てみればわかると思うわ。で、話の続きだけど……、スカイタワーに邪神がいるってい
うことまでは話したわよね」
ああ、と生返事でジタンが答えた。どうやらまだ、文字の事が気になっているらしい。
「でも、ただ行くだけじゃダメ。あなた達は現代で『大空の塔』に行く時、何した?」
クラウドが答えた。
「三つのアイテムを集めた。トライフォースとクリスタルと、聖のマテリアだな」
「三つ、かぁ。まあいいわ」
何がいいんだ、クラウドが訊き返した。
「え……い、いえ、何でもない。で、わかったと思うけど、スカイタワーに入るには魔法のカガミ、"マ
ジカルミラー"が必要なの」
「マジカルミラー……ねえ」
先ほどと違ってジタンは話を聞いていた。得意の腕組をしつつ、右斜め上を見ていた。どうやら、文
字の事はもういいらしい。なぜそこまで気になっていたかはわからないが。
「で、そのマジカルミラーはあなた達三人全員が行ったことのある場所にあるわ。どこだと思う?」
「問いかけなくていい。早く言ってくれないか」
クラウドは少し冷たく言ったが、ロフェシーはそれを気にせず、
「地底神殿よ。覚えてる?」
ジタン、クラウド、リンクは何かに目覚めたように驚いた。リンクとジタンが、ガノンドロフとの戦
いで致命傷を負った時にいた場所だ。そこで二人とダガーは、クラウドに助けられた。その地底神殿が
紀元前から存在していることに、驚愕の色を隠せなかった。もはや、隠す必要もなかったが。
だが確かに、あの神殿が大昔から存在しているのは納得ができた。建物自体がもろかったし、壁画が
あったり、武器などもあった。
「その地底神殿にマジカルミラーがあるわ。ただし、あなた達が前に入った部屋よりも奥に行かなけれ
ばいけないけど」
「……わかった」ジタンが締めくくりたかったのか、立ち上がった。「行こうぜ。リンク、クラウド」
「よし」リンクもイスから立ち、ブーツを床でとんとんと叩き、履きなおした。
「行くとするか」クラウドはゆっくりと立ち上がり、大剣バスターソードを持った。
「地底神殿は、この"都市ハイウォーク"の突きあたりにあるわ。あそこはいろいろ噂があるから、近付
く人はあまりいなくて入りやすいわよ」
「わかった。サンキュー、ロフェシー。ところでさ」ジタンはドアに向かい始めていたが、振り返って
ロフェシーに訊いた。
「邪神って、存在価値だとか人間が生きている意味はあるのか、なんて考えたんだよな」
「ええ……そうだけど…?」ロフェシーの顔に不安の色が浮かんだ。
「だからって、なぜ殺りくを繰り返すんだ? そんな事をしたって、何の疑問の解決にもならないだろ
う。まったくもって意味がさっぱりわからない」
「……元のあの子は、無駄なことが嫌いだった。いつでも合理的で、私が『無駄な動き』と言ったもの
はすぐさまに克服できてた。だから」ロフェシーはうつむき加減に行った。「その性格がエスカレート
してしまって……人間はなぜ生きているんだろう。なぜ存在するんだろう。理由がわからない。ならば
生きていても無駄。自身でその理論を貫き通して……」
「排除、か」クラウドは邪神の元の姿を思い浮かべようとしたが、それも"無駄"だった。
「人間の存在理由、か……ふう。考えるだけでも疲れる」リンクが小さい声で言った。
ロフェシーの言葉を聞いて複雑な気分になったジタンだったが、すぐに切り替えるかのように言った。
「意味や理由なんていらないさ。とにかく生まれた人間は、与えられた人生を楽しく過ごせば、それで
いいじゃないか。……なーんて事をオレは思うけどな」
ジタンの意見に、リンクが賛成するかのように言った。
「そうだよ。意味があろうがなかろうか、僕達は生きてるんだ。楽しまなくちゃ駄目だよ、ね、クラウ
ド」
リンクに目を向けられ、少しクラウドは戸惑ったが「ああ、そうだな」と答えた。
と、ここでロフェシーが深いため息をついた。
「それ、あの子に聞かせてあげたかったな」
「地底神殿の場所、覚えてる?ここの道の突き当たりよ」
ロフェシーはジタン達にもう一度確認した。
「ああ、わかってる」ジタンドアを開きつつ言った。
だがここで、ロフェシーが外に出るのを止めた。
「待って!」
「何だよ」
「その服じゃいろいろ不都合がありそうだから……」
とロフェシーが言ったあと、また何か力を溜めはじめた。突然ジタンが制すように、
「ちょ、ちょちょちょっと待てっ! 今度は何するんだ」
ロフェシーはキョトンとした目をしてジタン達を見つめていた。
「え……ああ、さっきみたいな痛みはないから大丈夫」
力をためるのに時間はかからなかった。ロフェシーはジタン達に手をかざした。
すると、一瞬寒気がした後、また元に戻った。リンクは頭に違和感を感じていた。
「あっ!ぼっ、帽子が無いっ」リンクは頭をペタペタ触っていた。金の髪があらわになり、少し焦って
いる。ちなみにリンクは、後ろ髪を少しだけ縛っていた。
「何だ、これ」クラウドは自分の服を見ながら言った。
驚くのも当然である。ロフェシーが魔法のようなものを放ったあと、服が変わってしまっていたのだ
から。
「これ、この時代の服よ。私の記憶にある男物の服から選んで着せたんだけど、どう?」
ロフェシーは機嫌がよさそうだった。
「…………」
ジタンは無言だった。
服の生地はなんとシルクだった。それも100パーセント純正のシルクのローブである。かなりつや
つやしていて、着心地がよかった。
「シルクってこの時代からあったんだな」
ジタンは無言だったが、服をさわりながら感心したように言った。
「もちろんよ。この時代どころか、一説には紀元前6000年頃からあったっていう話もあるわ」
「ふうん」
そして三人はシルクのローブをまとい、地底神殿にむけて出発した。
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