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 ジタンはドアを開けた。返事を待っていたのだが、なかなか返ってこなかったからである。
 ドアだけは木で作られてあるようで、取っ手も普通の木。ゆっくりと木でできた扉を開けると、「キ
ィ」という音がした。少しリンクの耳にはなぜか刺激があったようで、リンクは思わず耳を反射的に塞
いでしまっていた。
「誰かいるー? ……じゃなくて、誰か、いますかー」
 ジタンはドアを開けっ放しの状態で言った。三人は警戒しながらもゆっくりと家の中に入っていき、
無事には入れた様であった。
 リンクは、足元が気になったのでブーツを履きなおしていた。それでブーツを履き直している時に、
ドアが閉まっていないことに気づいたので急いで閉めに行った。
「……」
 依然として返事が返ってこない。
「………俺たち、入ってくるとこやっぱ間違えたか?」
 ドアを閉めに行き、再びブーツを履き直し終わったリンクが首をかしげて、
「わかんない。でもたまたま留守なのかもしれないし……」
「まさかあの市場のやつ、場所を間違えたんじゃないだろうな」
 クラウドが不機嫌そうな顔で言う。しかももう面倒くさいみたいな雰囲気をなぜか出していた。さっ
きはあんな張り切って論文的なことを話してたくせに、みたいな感じの目でジタンはちらりとクラウド
の顔を見た。
 三人はなかなか判断できず、ドアの前に突っ立っていたままだった。
 どうしようどうしようと、考えを巡らせていたジタン達に救いの音、と言うべきだろうか。ドア奥の
木でできた階段から、木がきしむ音がした。どうやらこの家は外壁だけが石でできているらしく、中は
すべて木造だった。
「あっ―――誰か来る」
 いち早く反応したのはリンクだった。何か見知らぬモンスターなどが来てもいいように、リンクはい
つでも剣を抜けるように構えようとした―――が、武器が無いことを思い出し、その準備はあきらめる
しかなかった。
「ん? 誰、あなたたち」
 洗濯物らしき服を抱えた女性が降りてきたのであった。

「あー、俺達は……その……なんて言ったらいいのか」
 女性は階段の上で立っていたが、そこまで驚いていない様子だった。女性は再び階段を降りだして、
最後の段を降りると、近くにあったカゴに丁寧に服をしまい始めていた。服をしまっている途中、女性
が再び質問した。
「だから、誰? あなたたち。名前を言ってくれればいいわ」
 口調は少しいらついているようであったが、女性は常に冷静さを保っているようだった。。そんな彼
女をリンクは不思議な思いで見ていた。その女性は、三人がドアの前に突っ立っていても驚きもしてい
ない。むしろ興味深そうに名前を訊いてくる。まるで、自分たちが来る事を知っていたかのように。
 その女性に見とれていたのか、ジタンはリンクが服を引っ張るまで我に返っていなかった。
「あ……名前か。俺はジタン。その金髪のはクラウド。で、緑色を着ているちっちゃいのがリンクだ」
「……ちっちゃい…」
「あれ、お前背が低いの気にしてんのか?」
「別に身長小さくないよ。ジタンから見れば身長が低いだけだって」
 リンクは小さくため息を漏らした。だがリンクは、すぐに女性の方を向いた。なぜか女性は微笑んで
いて、三人を見ていた。
「そう。無事に来れたのね。良かった」
 この言葉に、三人とも目の色が変わった。『無事に来れた』。この言葉が出た理由は、ただ一つであ
ろう。
「じゃあ、あなたが……?」
 リンクは勇気を振り絞って訊いてみた。確信はしていたつもりであったが、念のため、というわけだ
った。
「そうよ。私が、あなたたちをこの世界に導いた。私の名前は―――、"この世界での名前"ね。ロフェ
シー。よろしくね」
 突然意表を突かれることを言われた上に、すんなりと微笑んで名前を言われた。これが驚きでなくて
何だろう。
「さて……と。あ、座っていいわ。そこのテーブルにあるイスに適当に座って」
 指示されたが、さっさと動くロフェシーという女性をじっと見たまま動かない三人であった。
「……おーい? 大丈夫? もしかして、ビックリしてる?」
「……ああ」
 クラウドがかろうじての思いで声を出した。三人は、頭の整理ができないでいる。だが、リンクは理
解しようと記憶を整理していた。なぜこの女性があんなことを言ったのか。
 自分達は謎の建物内から、ある場所へ飛ばされた。飛ばされた場所はこの世界で、外には古代の時代
を思わせる建造物がいくつもならんでいた。
 そこで、ある事件が発生する。街が襲撃された事件だ。あの街の名前はわからなかったが、自分達は
救助を手伝った。そして、あの市場にいたらしき人物から、この場所を教えられる。
 今、自分とジタンとクラウドはその場所にいる。この家の家主が階段から降りてきて名前を聞くなり
安心したように胸をなでおろしていた。
 とんとん拍子に話が進んでいてもうまったく訳が分からなかったが、とりえあず話を聞いてみようと
リンクは試みた。
「ジタン、クラウド、座ろうよ」
 リンクはテーブルの近くにあったイスに腰をおろした。あとの二人も何も言わずに続いた。
 先ほどから言葉が出てこないジタンに、ロフェシーが語りかけた。
「あなた、大丈夫? そんなに驚いた?」
「………まあ、そうだな」
 その答えを察していたようにロフェシーは止めずに会話を続け、
「なら、とりあえず休んで。これからあなた達にもっと驚く事を言うから。それでポックリ逝っちゃっ
たらたまったものじゃないわ」
 驚くこととは何だろう。三人とも同時に同じことを思ったが、本当に休むことを決めたのかジタンが
立ち上がって家の中を見回した。
 だがジタンだけには、何ともいえない違和感があった。一番の違和を感じたのは、先ほどの会話だっ
た。何か引っかかるが、わからない。
 家の中には色々なものが飾ってあったが、数はそれほどでもなかった。『タペストリー』と呼ばれる
つづれ織りが飾られていたり、花瓶があったり、生活感があふれていた。
 ジタンは部屋を見ている最中にロフェシーがごそごそと何かやっているのを発見した。
「なあ。それ、何やってるんだ?」
 ジタンが敬語も使わずに近付いて声をかけた。どうやらヒルダに「敬語を使わなくていい」と言われ、
そのクセがまだあったようだった。
 だがそんなことを気にしているジタンをよそに、ロフェシーは何かをしている。引出しから何かを取
り出しているようだった。
「………あ! やっと見つけたー」
 ロフェシーが取り出したのは紅茶のパックが入ったらしい古ぼけた箱だった。
「あなたたち、紅茶って飲める?」
 何か凄いものを取り出すのかと思ったら紅茶のパックで力が抜けたジタンだったが、そういえば喉が
乾いていたなと思った。それにしても『紅茶って飲める?』という質問はおかしいんじゃないかとジタ
ンは心の中で地味にツッコミを入れていた。
「俺は大丈夫……クラウドは?」
 ジタンは少し振り返りクラウドに訊いてみた。紅茶なんて飲むのかなとジタンは戸惑ったが、返答を
待っていると数秒後に返ってきた。飲むらしい。
「リンクは? ……あー、そうか。……紅茶って聞いたことあるか?」
「うん」
 実はリンクはトライフォースを取りにハイラルに戻った際、城の食事で出た得体の知れない液体(紅
茶)についてダガーに質問していたのであった。



「いただきまーす」
 リンクはフォークを手にとり、まずはローストビーフに手をつけた。しっかりと刺し、特製のソース
をつけて口にほおばった。
「ほわっ……おいひー、ほれ」
 うわっ、おいしー、これ、と言おうとしたのだが案の定口にローストビーフが入ったばかりなので言
えない。
 それを噛みつづけ、ゴクリと飲み込んだあと、リンクは喉が少し渇いていたのでカップに入っている
ものを飲もうとした。
「………」
 ジロッと紅茶を眺めるリンクを見て、ダガーは様子をうかがってから訊いてみた。
「どうしたの? リンク君」
 リンクとは違い、かなり丁寧な手つきで食べていたダガーだった。カチャカチャと音をたてているリ
ンクとは真逆だった。
「これ……なに?」
 リンクがカップを差し出してきた。中には紅茶がある。
「……リンク君、もしかして紅茶も知らない?」
「……こうちゃ? 何それ」
 説明してあげる、と微笑んでダガーはテーブルにあった砂糖入れを手をのばして取った。
「紅茶っていうのは……そうね……どこから説明すればいいんだろ」
 ダガーは天井を見て考えた。天井には、さっきリンクに教えた『シャンデリア』がある。
「お茶の葉ってあるでしょ? それは知ってるわよね」
「知ってるよ」
「あれを低温でながーく発酵させて……あ、発酵っていうのは、簡単に言えば腐らせるってことね。で、
発酵をした後、乾燥させるの」
「ふーん……」
「それで、その乾燥させた葉っぱを熱いお湯で煎じたものがこの紅茶。わかった?」
 リンクはダガーの説明を聞いたあと、もう一度紅茶を眺めてから、
「うん、なんとなく」
 と、返事をした。



「わかった。……みんな飲めますけど…?」
 ジタンは先ほどと打って変わって敬語になって、ロフェシーに伝えた。いかにも敬語を使うように気を
つけているような感じが出ていた。
「じゃあ、お湯を沸かそうかな」
 ロフェシーやかんを持ち、外に行って水をくんできた。そうしてから、やかんを火にかけた。
「ふう……」
 ロフェシーは額の汗をぬぐった。数秒の間があった後、ジタンがロフェシーに言った。
「なあ………もう話してくれていいよ。 ロフェシー……あなたが何を知っているのか」
 汗をぬぐっていたロフェシーであったが、目つきが少しだけ変わった。
「……もういいのね?」
「…ああ」
 ロフェシーを含む四人は、再びテーブルのイスに座った。そうしてからロフェシーは変わらない表情で
話を始めた。

「……まずあなた達に質問するわ」
「何だ?」
 訊き返したのはクラウドだ。
「こうやって話していて、何か変だと思わない?」
「…?」
「あなた達は違和感を感じていないようだけど……。あなた達にとって、おかしな事が一つだけあるはず」
「おかしな…こと…?」
「そう、おかしなこと。ヒントは―――」
 ヒントを言おうとしたらしいロフェシーをジタンが止めた。どうやらわかったらしく、静けさをまとっ
た口ぶりで言った。
「わかった……。わかった。そうだ。これだ」
 ジタンは少し頷きながら呟いた。
「え…? なに、ジタン」
 リンクが興味津々ながらも、落ち着いて訊く。
「さっきから感じていたんだ。違和感を。そうか……我ながら情けないな。こんなことに気付かないなん
てな」
 ジタンはクラウドに目を向けた。どうやらクラウドもわかったらしい。
「……そうだな」
 クラウドはジタンを見返し、また正面を向いた。そしてジタンはその違和を述べた。
「ロフェシー、あなたは"俺達の時代の言語"を話している。言いたいのはそれだろ?」
 ロフェシーはなぜか下を向いて考え込んでいたような顔だったが、すぐに上げた。
「そうです。ではその問題が解けたところで、すべてをお話ししましょう。ただし、あなた達の身にこれ
から何が起きるかはお教えできないのです」
 ジタンが首をかしげた。
「すべてを話してくれるのはありがたいけど……俺達の身に何が起こるか教えれないだって? もしかし
て、未来の事が……わかるのか?」
「はい。もちろんです」
「もちろん…って………」
 戸惑うジタンだった。が、ここでクラウドがロフェシーに訊いた。
「未来の事がわかるにしても、なぜそれが教えれないんだ」
「…あなた達三人は、苦難な運命がこれから待ち受けています。それを述べれば、あなた達は必ずそれを
回避しようとします」
「……当たり前だ。苦難な運命が待ってるんだと知ったら、楽になるようにしたいさ」
「それがいけないのです。歴史が改変されてこの世界もろとも滅びてしまいます。だから、お教えするこ
とはできません」
「………」
 クラウドはそれ以上言葉が出なかった。なぜ滅んでしまうんだ、と訊き返したかったが、なんとなく理
由がわかるような気がして質問はしなかった。
 リンクは悩んでいるような二人を見てからロフェシーに話しかけた。
「ねえロフェシーさん。その未来のこと……っていうのはわかった。僕達は、この世界に来た理由とか、
そういうのを知りたいんだ」
 ロフェシーはリンクを見た。緑色の服で身を包み、金髪である勇者。剣と盾こそ今は持っていないもの
の、その眼差しは真の勇者であることを思わせた。

「わかったわ」


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