*

 クラウドは一足先に、リンドブルムに帰ってきていた。リンドブルムのエアキャブに乗ってリンドブ
ルム城前に行き、ゆっくりとした歩調で歩いて行った。
 城に入り、リフトで最上層へと上昇した。機械の古い匂いが、クラウドは少しだけ気に入っていた。
しかし彼は意外に酔いやすく、船や飛空挺などの乗り物には実は弱い。
 城内を見まわしつつ、大公の間へ向かった。扉の前に立ち、上級兵士の「大公様がお待ちです」とい
う言葉を聞いてから扉を開いた。
「ん?」
 扉を開け、ちょっとした階段を上ると、シドがいた。シドは立ち上がり、クラウドに近づいた。本を
読んでいたらしく、片手には洋書らしき本があった。厚い。
「おお、君だけか」
「聖のマテリアはとってきたけど・・・。ジタン達は?」
「まだ来ておらんよ。それにしても早かったのう」
 などとクラウドと会話していたシドであったが、クラウドの口調に少し違和感を感じていた。何か変
わったような気がする。クラウドの急に打ち解けた口調に少しシドは困惑した。
「ところで、聖のマテリアというのはどういうものなんだ?見せてくれないかの」
「ああ、わかった」
 と、クラウドは答え、大事にしまっておいた聖のマテリアを取り出した。
「これがマテリアとやらか・・・。」などとシドは言いつつ、眺めている。「そもそもマテリアという
のを何かわしは知らんのじゃが・・・」
 シドがクラウドに、マテリアについての説明を求めているとヒルダが入室してきた。
「あら、クラウドさん・・・他の方たちは?」
 クラウドは、まだみたいです、と答えた。
「そうですか。あ、あと、話される時は普通の口調でよろしいですよ」
 クラウドはそう言われたので、口調を改めることにした。たぶん、ジタンもこう言われて普通の口調
で話してたに違いないとクラウドは思った。
 何の話をしていたかど忘れしていたクラウドは数秒の間のあと、再び話し始めた。
「あ・・・マテリアの説明か。このマテリアっていうのは、魔晄・・・まあ、正しく言えばライフスト
リームっていうのが凝縮されて生まれた結晶みたいなものなんだ」
 このクラウドのクールさが少し欠けた口調を耳にして、ヒルダは耳を疑ったが、そのマテリアという
ものの説明を聞くことにした。
「そこには『古代種』っていう古くから星に住んでいた人達の知識が封じ込められているんだ。人工的
にライフストリームを凝縮して作ったマテリアが多いけど、これは天然のマテリアだ。ライフストリー
ムが豊富なところにしか天然物のマテリアはできない」
 ということは、とシドはクラウドに質問した。
「それは何か不思議な力が込められているということなのか? もちろんマテリアというものに限らず、
自然の驚異でできたものは強いと聞くが」
 クラウドはその通り、とうなずいてからまた説明を再開した。
「そうだ。これは何か不思議な力を持っていると予想していいが」クラウドは手に載せていた聖のマテ
リアをしまった。「今は敵地へ向かうことができるカギ。それしか俺達にはわかっていない」
 
                      *

「ふー、疲れたー」
 リンクは座りながら両手を後ろにつき、空に向かって言った。
「たいしたものだな。あのガノンドロフを倒した、と聞いていたが・・・」
 こんな言葉をリンクにかけつつ、深くうんうんと頷いているのはゼルダの父である、ハイラル王だっ
た。
 これまでハイラル王とリンクの戦いぶりを見ていたダガーは感心しきっていた。
「王さまと互角なんて・・・。リンク君ってほんとうに凄いのね」
 リンクは相変わらず空を眺めている。小さく口を開けて、何か考え事をしている様子だった。
「リンク」
 声をかけたのはゼルダだった。リンクを、かがんで見ながら言った。
「これからどうする?」
 リンクはぼーっとしていてやっと我に返ったのか、焦った様子で言った。
「え? あ、ああ、王様にもある程度稽古をつけてもらえたし、もう帰るつもりだけど・・・」
「そう」
 ゼルダは姿勢を戻し、近くにあった庭の花の様子を見た。だがここで、王が帰るのを引きとめた。
「もう帰ってしまうのか? 今日、明日はここでのんびりしていくといい」
 リンクは泊っていくことを勧められた。少し迷ってから断ること決めたのか、
「・・・いや、のんびりしている時間はないんです」リンクはずっと座ったままであったが、ゆっくり
と立ち上がった。「早く行かないと世界が大変なことになる。ガノンドロフは倒したけど、根源を早く
どうにかしないと」
 決意、使命、短くもいろいろな重みがかけられた言葉に圧倒されたのか、ハイラル王は「わかった」
と言うしかなかった。

 そうしてからリンクはハイラル王にお礼を言ってからダガー、ゼルダと共にハイラルを再び後にした。

                      *

「やっと着いた・・・と思うんだけど、近いんだよな。あー、疲れた」
 ジタン一行は、壮絶な戦いを終えてからクリスタルを入手してリンドブルムに帰ってきていた。ジタ
ンは一時重傷であったが、不思議な力によって治ってしまったのである。今彼らはエアキャブ駅に向か
っていた。
「でも、クリスタルが手に入ってよかったじゃない。セフィロスと戦ったけど、みんな生きてるわ」
 エーコが頭の上にクエスチョンマークを出したようにティファに質問した。
「ねえティファ、あのセフィロスってやつ、そんなに強いの?」
 ティファは少し唸りながら答えた。
「う〜ん、もっと強かったはずなのよ。少なくとも私では到底勝てないはず・・・だったんだけど。な
んでだろう・・・弱い気がしたわ」
 どちらも疑問を抱えている二人に、ジタンは付け足しした。
「それはたぶん、あいつらに完全に力が戻ってないからだ」
 ティファは訊き返した。
「・・・"ら"?あいつ"ら"って何?」
「セフィロスが邪神の手下であったとするならつじつまが合う。クジャも復活したことはエーコに話し
たよな?」
「うん」
 ジタンはエーコにもわかるように、螺旋神殿に行くために歩いている最中にこれまでのことをエーコ
に話しておいたのだった。
「あいつはオレ達・・・リンクとオレが戦って瀕死状態になったら、自分を回復せずに逃げた。回復す
るほどの魔力を持っていなかったんだ。だから―――」
 ジタンはティファに問いかけるように言葉を切った。
「・・・やっぱり、復活したばかりで力が完全に戻っていなかった、ということね」
 そうだ、とジタンは頷いた。
 と、ここでエアキャブの駅に到着した。駅員に行先を告げ(もちろんリンドブルム城前)、エアキャブ
に三人で乗り込んだ。その中に、リンドブルムの王女であるエーコが混じっていたのを見て駅員は驚い
ていたようだった。
「だからリンク達かクラウドがあいつらの一味の誰かを倒していてもおかしくない。セフィロスはオ
レ達が倒したから、クジャか、ガノンドロフか・・・」
 エーコがエアキャブからリンドブルムの街並みを眺めながら言った。
「二人とも倒されてるといいんだけどなあ」
「まあでも、そんなうまくは行かないわよ。リンク君とガノンドロフの関係が深いのは聞いたけど、ク
ラウドと・・・クジャ、だっけ。戦うはめになるような事が起こるとは思えないわ」
 ティファもリンクを『君付け』するのかとジタンは思いながら言った。上を見上げている。
「リンクとガノンドロフか。戦っててもおかしくないな」ジタンはティファに顔を向けた。「トライフ
ォースってのを取りにきたリンク達を邪魔して、ガノンドロフが手に入れようとした、というのも考え
られる・・・だけど、さっき言ったとおり、」
 その続きを言おうとしたが、エーコがさえぎった。
「ガノンドロフっていう人の力が弱ってるから、倒してるかもしれない、のね!」
 少し間があったあと、ジタンはエーコを横目でチラリと見てから続けた。
「そうそう。ま、疲れてるし、この話はここまでにするか」

                      *

 大空の塔。ここには薄い空気が漂い、酸素が少ない。だが邪神は大丈夫なようであった。
「・・・三人中の二人の戦士が死んだぞ」 
「それでも大丈夫なはず。彼らは兵にすぎないはず。たとえあの三人が倒されたとしてもあなたがいる。
計画は進んでる。あの三人の勇者たちはいずれお前を倒しにくる。その時に奴らを打ち崩し、パワーを
吸収すればいい」
「・・・本当に奴らのパワーだけで足りるのか? "それ"を実行するには、驚異的なパワーが必要だと
聞いているが」
「あの勇者たちはそれほどの力があるはず。それは確か」
「わかった。あとあいつらが来るまでどれくらいだ?」
「あまり時間はない。戦いの準備をしておくのを勧める」
 少し間があった。
「何回も訊くようだが、パワーのことだ。三人全員のパワーを吸収すればいいのか?」
「いいや、一人で十分」
「・・・本当にか?」
「本当」
「・・・・・・」
 
 これは邪神と、ある人物の会話であった。その人物というのは、後にジタン達の敵になる・・・とい
うことは、この会話からして言うまでもないであろう。

                      *

 クラウドは、白のルークを手にしていた。
 シドとクラウドはどうしてもヒマなので、チェスをしていた。実はこのチェスの駒はポーン以外だけ
召喚獣をかたどっており、ルークは炎属性攻撃のイフリート、ビショップは雷属性攻撃のラムウ、ナイ
トは一撃死効果を持ち、馬に乗って斬鉄剣を持っているオーディーン、クイーンは冷気属性攻撃であり
女性であるシヴァ、キングはバハムートであった。ちなみにポーンだけはなぜか普通の兵士なのである。
 リンドブルムの街中でも普通に子供たちが遊んでいるのを、城に歩いてくるときに見ていたクラウド
は少しながらも興味を持ち、シドと対戦しているのだった。
 クラウドが次の手を考えている時に、大公の間の扉が勢いよく開かれた。バンッ、と大きな音がした。
「おとうさーん!おかあさーん!」
 エーコが扉を開けてから走ってきて、突然チェスの対戦を見ていたヒルダに抱きついた。
「ど、どうしたの、エーコ」
 ヒルダはエーコの様子をうかがった。エーコは少し泣いている様子だった。
「さびしかったし・・・ヒクッ、ううっ、怖かったよう・・・ヒクッ」
 螺旋神殿で何があったのか気になったが、ヒルダはエーコが泣いているので慰めてあげた。
「そう、大変だったわね」ヒルダは自分にくっついていたエーコを離した。「もう大丈夫よ。泣かない
で」
 シドが心配してエーコの元に行こうとしたが、ヒルダが、いいわ、と目でサインを送った。
 そんな感じでヒルダがエーコが泣くのをおさめようとしていると、ジタンとティファがとっくに部屋
にいたことに気がついた。
「ジタン、螺旋神殿で何があったのです?」
「まあ・・・いろいろと、だ。詳しくは後で話すよ。でも、エーコが怪我しなくて良かった」
「そうね」同意してから、ティファは少し室内を見回していた。
 と、ジタンがクラウド達の方を見た。じっと見ていたのをクラウドが少しイラっとしたのか、少しジ
タンを睨んでみせた。
「何だ」
「クラウド、チェスできるのか?」
「チェスをやるのは初めてだ。意外と楽しいな」
 『楽しい』というワードがクラウドの口から出たのが意外だったのか、ジタンは意表を突かれた顔で
言った。
「・・・クラウド、何か変わったことあったのか?」
「いいや」
 即答されたジタンは、小さなため息をつきながらもチェスを見ていた。見たところだいぶ対戦は進ん
でいて、そろそろどちらかがチェックメイトしてもおかしくないだろうと思われる頃だ。
 ここで、そんなジタンの予想が見事に的中したかのようにシドが言った。
「チェック、じゃ」
「・・・ちっ。俺が次でチェックするつもりだったが・・・逃げるしかないか」
 クラウドは王手をかけられた、キングであるバハムートを左のマスに移動させた。
「ふむ・・・かかったのう」
「え?」
 録音しておきたいまでにクラウドが意表を突かれたような声を珍しく出し、シドはクイーンを斜めに
ぐーんと移動させた。
「チェックメイトじゃ!」
「・・・・・・・・・・・・・」
 沈黙が走る。
 チェックメイト、つまり詰んだのだ。
「ちぇっ。負けたか」クラウドは椅子に深くもたれかかった。
「はっはっは。シロウトには負けんよ」
 クラウドが立ち上がり、ジタンに近づいて話しかけた。
「クリスタル、手に入れたのか」
「ああ。なんとかな。これだ」
 ジタンはポケットにあったクリスタルを取り出した。そんなところにしまってたのかよと、クラウド
は突っ込もうとしたが相に合わないし面倒くさいのでやめておいた。
「・・・凄い輝きだな」
「そうだろ?オレも最初見た時は驚いたよ」
 二人がクリスタルを眺めていて、シドも見に来ようとしていた時に、またまた扉が開かれた。
「あれ・・・?みんないる」
 リンクは六人を見ながらそう言った。どうやら自分たちがかなり遅かったようだと認識したらしく、
「ごめん、遅かった?」
 そんなリンクにクラウドが話しかけた。
「いや、俺達もさっき来た所だ」
「・・・・・・?」
 なぜか多く言葉を発してくれたクラウドに、リンクもジタンと同じように意表を突かれた。
「ふう。疲れたわ」
 そう言ったのはダガーだった。少し汗をかいている。
「かなりの距離だったから・・・私も疲れたな」
 ゼルダは疲れを出し切るように溜息をしたあと、リンクに小声で提案をした。
「トライフォース、見せたら?」
「え? ああ、うん」
 リンクはトライフォースを手の甲から浮かび上がらせた。それを見たジタンはかなり驚いたようだっ
たが、クラウドはそこまで驚いていなかった。
「なっ、ななななんだそれ!?」
「これがトライフォース。聖なる三角。手に入れた者の手の甲に宿るんだ」
 シドが興味深そうにトライフォースを見ながら、
「ふむ・・・。不思議なものじゃのう」と感心していた。
 トライフォースを眺めていたジタンは、クラウドにとってきたものを見せてくれるように頼んだ。
「なあ、聖のマテリアってやつ、見せてくれよ」
「ああ」
 クラウドは再び聖のマテリアを取り出した。
「これが―――」
 マテリアって言うのか、などとジタンは言おうとしたが、その直前にトライフォース、聖のマテリア、
クリスタルが輝き、大公の間が光に包まれた。
 誰もが目を閉じ、まぶしさに耐えた。
 それから数秒後、ジタンとクラウドとリンクは妙な感覚に包まれた。天地が逆転したような、超高速
で移動しているような、何だかわからない感覚だった。



「う・・・・・・。なんだ今のは」
 クラウドはなぜか自分が倒れていたことに疑問を感じつつ、立ち上がった。周囲を見て、衝撃が走っ
た。
「・・・? どこだ、ここは・・・」
 あたりの床を見回してみる。床―――。ここは室内だと確かめつつ、床に倒れていたジタンとリンク
を起こしにかかった。
「おい、ジタン、リンク、起きろ!」
 すると声が一発で頭に届いたのか、二人とも同時に起きた。
「うー・・・ん」
「何だ・・・今のは・・・」
 しぶしぶと起きたのはリンクで、のんびりとした感じで立ち上がった。クラウドと同じセリフを言っ
たのはジタンだ。
「様子が変だ。ここは城じゃない。俺達はどこかに飛ばされたんだ」
「え・・・・・・? あ・・・ほんとだ」
「・・・なぜだ? なぜオレ達は急にこんなところに・・・?」
 ジタンはクラウドに質問したつもりだったが、聞こえていなかったのか、返答はなかった。

 状況を必死で確認していた三人の頭の中に声が流れた。 

『すべてのカギは・・・過去にある』

「!?」三人同時に驚いた。

『今から・・・お前たちを・・・過去に送り込む・・・。そこに行って・・・世界を救うがよい』

「・・・・・・。」
 ジタン達は言葉を発することができなかった。

『その台座に・・・三つの聖なる鍵をおさめるがよい。お前たちを過去へ送ろう』

 それっきり、その声は聞こえてこなかった。

 数分たったであろうか。クラウドがようやく口を開いた。
「なんだ・・・今の声は?」
 ジタンが天井を見て言う。
「さあね。どうする? 言う通りにするか? まあどっちみちこのままじゃあ、ここからは出れな
さそうにないけどな」
 クラウドはやれやれ、と言ったようなポーズをとった。
「置いてみようよ、この三つ」
 リンクも勧めた。
 この部屋には出口らしきものがなく、密室であった。なので、とりあえずこの部屋を脱出しなけ
れば酸素が足りなくなり、そのうち三人共死んでしまうことは明らかだった。
「よし、やってみよう」
 三人は三つの"鍵"を取り出した。それぞれ丁寧に、台座に収めた。

 収め終わった後であった。
 
 三人の姿が消えたのだった。

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