*
 ティファは蹴りを繰り出した。セフィロスはすかさずかわし、攻撃に移った。
「くっ・・・」
 セフィロスは長刀・正宗を大きくふった。しかしティファは隙を見せず、白刃取りのごとく剣を受け
止める。だがその中でも、セフィロスは余裕を見せた。
「なかなかだな、ティファ」
「・・・はあっ!」
 その掛け声とともにティファは正宗を横に大きくずらし、すかさず拳に力をこめ、セフィロスを殴り
つけた。鈍い音がした後、セフィロスは少したじろいだ。
 戦いを見ていたジタンは、声を上げた。
「ティファ! オレも加勢する!」
 ティファは髪を少し振り乱しながら振り返った。
「いいえ・・・私にやらせて・・・!」
 ティファの強い意志が込められた眼差しを見て、ジタンは少し迷った。だが、このまま彼女ひとりで
戦って死んでしまったらどうだろう。自分は悔んでも悔みきれないだろうとジタンは感じた。
「ダメだ! 見てはいられな・・・・・・ティファ! 後ろ!」
 ティファの反撃を受けたセフィロスがふたたび剣を斬りつけようとしてきた。ティファは素早く前に
向きなおした。神速の速さで振られた剣は、あっという間にティファの顔へ近づく。
「・・・・・!」

 音はしなかった。
 
 ティファは、正宗を左手で掴み、止めたのだった。しかし強く刀を握られた手からは、血が少しずつ
滲み出ていた。
「く・・・お前・・・!」
「どうやら、あなたは実力が落ちた様ね・・・。私に受け止められるなんて」
 セフィロスは正宗を強く握り、力を込めていた。だがティファの手から刀は外れない。
 そしてついには、ティファは動かないセフィロスの身体に蹴りを打ち込んだ。
 鈍い音とともにセフィロスは飛ばされ神殿の壁に体を打ちつける。壁が少し崩れた。
「・・・・・・」
 セフィロスは動かない。ティファも動かなかった。

「セフィロス・・・・・・?」
 もう死んでしまったのだろうかとティファは思ったが、それも束の間であった。セフィロスはおもむ
ろに立ち上がり、突然走り出し、階段を下り始めた。
「おい! セフィロス!」ジタンが大きな声で呼んだが、もちろんセフィロスは止まらなかった。
 ジタンはその場に立ちつくすのみであった。状況を見ているだけで精いっぱいであったが、自分で自
分の左手を掴んでいるティファに駆け寄った。
「ティファ」
「え・・・? あ、ジタン」
「左手・・・血が出てるけど・・・大丈夫か?」
「うーん・・・ちょっとズキズキして痛いけど大丈夫」
「そうか」
 ジタンはティファの服の袖を見た。少し黒色の生地の布に血がしみている。さわってみると、意外に
つやっとした生地だった。
「・・・何? ジタン」
 ずっとティファの服をさわっているジタンに少し鬱陶しそうな目で言った。
「あ・・・悪い悪い」ジタンはすかさず手をひっこめた。
「ねえジタン、セフィロス、何で下に行ったのかな」
「さあ。下に用があるのかも・・・!?」
 突然ジタンが何かを思いだしたかのように言葉を切った。
「どうしたの?」
「下・・・そうだ・・・! エーコがいる!」
 ジタンは駆け出した。
「あ・・・!待って!」
 ティファも左手を気にしながら立ち上がり、ジタンを追いかけた。

 階段を下りる音だけ響いている。全速力でジタンは駆け抜け、いつのまにかエーコのいる階層に着い
た。
 どのくらいかかったかなど、ジタンは全然知るよしもなかった。
 
 そこにはエーコの胸倉を掴んでいたセフィロスがいた。
「なによあんた・・・っ!」
「うるさいガキだ・・・? フム・・・。ジタン、遅かったな」
 セフィロスが発した『ジタン』という言葉にエーコが反応した。
「ジタン・・・? あっ!ジタン!早く助けてえっ!」
「セフィロス・・・卑怯だぞ・・・!」
「卑怯・・・? クックックッ・・・卑怯だと? そんなことをお前達人間にいわれるたびに思うのだ
よ」セフィロスは刀を取り出した。「お前らの方が卑怯だとな」
 ジタンはセフィロスの言っている意味がわからなかった。もしかしたら、クラウドならセフィロスの
言いたいことがわかるかもしれないとジタンは思った。

 そしてセフィロスは、エーコの胸に刺すがごとく、正宗を片手で構えた。
「この階層に強大な魔力が感じられてな・・・。今のうちに手を打っておくべきだと判断した」
 ジタンは動けなかった。しかしエーコが騒ぎ出した。
「きゃあっ!ジタン、早く助けてよおっ!」
 ジタンは返答しなかった。
 ジタンはセフィロスの話を聞いていた時のように、頭をフル回転させていた。ジタンはひとつの賭け
に出ようとしていた。
 この塔は部屋が円形になっていて、直径が大体10メートル。セフィロスとの距離は、おそらく5、
6メートルである。
 ジタンは慎重に短刀を取り出した。少しでも剣の音が立てばエーコを助けようとしていることがばれ
て、すぐにエーコを刺し殺してしまうだろうと、嫌であったが確信していた。
 もう少しで短刀が抜けきれるところだった。セフィロスが刀をあげた。
「いやあっ!!ジタンーーーッ!」
 ジタンはその途端、慎重に短刀を抜くのをやめ、一気に短刀"ダガー"を引き抜いた。しかしその剣の
音はエーコの悲鳴によってかき消されたのだった。
 セフィロスは残酷にも七才の少女に刀を振りおろした。もうダメだと悟ったエーコは、目を閉じてい
た。なぜジタンは助けてくれないのかと思いながら。
 ジタンはセフィロスが刀を振り下ろした瞬間、ダガーをサイドスローのような形で思いっきり投げた。
風を斬り、ダガーは真っ直ぐ突き進んだ。
 2メートル、1メートルと、目にもとまらぬ速さで短刀はセフィロスに近づく。そして――――。

「・・・・・・あ・・・れ?」
 声が出たのはエーコだった。見上げてみると、刀が無い。と、ここで胸倉から手が離れた。どんっ、
と、エーコがしりもちをつく。
「いたっ!」
 しかし目の前にはひざまずいているセフィロスがいた。胸を押さえている。
「ぐ・・・あっ」
 エーコは素早くあとずさりした。エーコは七才とあって、血が苦手だった。そしてすぐさま、ジタン
の所に駆けて行った。
「あれ・・・ジタンが?」
 目の前の光景に驚いているジタンに声をかけた。
「・・・? あ、ああ・・・。まさか急所に刺さるなんて・・・」
 なんとジタンが投げた剣は、心臓がある場所へと突き刺さったのだった。これはいい意味では予想外
であった。もうジタンは、セフィロスは動けないだろうと思った。
 と、ここでティファがやっとこの階層にたどり着いた。しかし目の前の光景を目にして、驚愕の色を
隠せないでいた。
「・・・! セフィロス・・・!」
「ティファ・・・」
「もしかして・・・あれ、ジタンが?」
 ああ、とジタンは答えた。
「そんな・・・どうやって・・・?」
 ここで、エーコが突然驚いた声を出した。正面を指差していた。
「ジ、ジタンッ!避けてっ!」
「え・・・?」
 ジタンがティファから正面に振り返った時だった。
 刃がジタンの腹に刺さっていた。

「うっ・・・!」
 ジタンは先ほどのセフィロスのように、殺傷された部分を押さえていた。ここをケガしたのは何回目
だろうかなどと思っていた。しかし刺されたのは腹だった。しかしそれは正宗ではなかった。
 ジタンは痛みに耐えながら、前を見た。折れた正宗と、立っているセフィロスがいた。どうやらセフ
ィロスは長い正宗を投げるのは抵抗があったのか、正宗を音を立てずに折り、ジタンに投げつけたらし
い。
「ジタン!」
 エーコの悲鳴とまぜ合わせた声だった。
「・・・・・・・・・セフィロスッ・・・!」
 セフィロスは立っていた。胸にダガーが刺さったままだ。
「生意気なことを・・・。致命傷を負ったが・・・お前らを殺すほどの力はまだある」
 そう言ってセフィロスは近づいてきた。
「くそっ・・・あいつ・・・人間か・・・?」
 だが、足を少し引きずっているのをみて、ジタンは決意した。その決意をした後、腹に刺さっていた
正宗を抜いた。
「エーコ」
 意外にジタンの声は落ち着いていた。エーコはセフィロスを見ていたが、振り返った。
「・・・・・なに? ジタン」
「しょうかん・・・だ・・・! 召喚獣を・・・!」
「でもたぶん・・・あたしの召喚獣じゃ・・・あいつは倒せない・・・」
「大丈夫だ・・・あいつは致命傷を負っている・・・。トドメをさすんだ・・・!」
「・・・・・・」エーコは下を向いている。
「自信を持て・・・! 召喚士一族の生き残りじゃないのか・・・!?」
 その言葉で、エーコは顔をあげた。決意してくれたのだと、ジタンはすぐにわかった。
「・・・・・・わかった・・・やってみる」
 エーコは両腕を前に出し、呪文をとなえはじめた。

『この・・・邪悪なるものに裁きを・・・!』

 エーコが呪文を唱え始めた時、わずかながらセフィロスの目の色が変わった。
「・・・あの小娘・・・なにを・・・?」
 エーコは相変わらず目を閉じながら、呪文を唱えている。

『時は満ちた・・・。いま、この悪を消し去るための加護を我に与えよ!』

 エーコの周りには青い光が集まっている。風が巻き起こり、わずかながら地震も起きていた。
「あれって・・・もしかして・・・ジタン」ティファがジタンに問いかけた。「もしかして・・・召喚
なの?」
「・・・? さっきオレとエーコが話してたの聞こえなかったのか」
「え・・・ええ・・・ごめんなさい」
 ジタンはセフィロスが気になったので、セフィロスに目をやった。凍りついたように動かない。どう
やら召喚に驚いているのかと思った。

『光よ集まれ!聖なる力を呼び起こし、この者に裁きを!』

 いよいよ最終段階と思わせる呪文を唱えたのを聞いたあと、ジタンは口を開いた。
「エーコは、召喚士の一族の生き残りなんだ。あいつは6才・・・いいや、7才だったか・・・。7才
ながらにして強い魔力を持ってる」
「あの子が・・・?」
「ああ」

『出でよマディーン!テラホーミング!』

 決めゼリフのごとく出たその言葉とともに、螺旋神殿は光に包まれた。エーコがこの召喚獣を召喚す
るのを、ジタンは何回も見たことがある。
 青白い光に神殿が包まれると、ジタン達の姿が消えた。もちろんこれは、召喚した者達に傷をつけな
いための、召喚した時になされる自動的な処置である。
 深い傷を負っていたセフィロスは聖なる力でさらなる攻撃を受けた。召喚獣『マディーン』は指先に
魔力を集中させ、手をクロスさせて大きく上に腕を上げる。そして、魔力が爆発するかのように解き放
たれ、次々に光達がセフィロスに襲いかかる。
 

 ジタン達は姿を現した。セフィロスが倒れている。


 恐る恐る三人で近づいてみる。その中でもエーコは特に怯えていた。
「し・・・死んじゃったんだ・・・よね」
 傷を負っている部分をジタンは押さえながら答えた。まだ少しだけ血が滲み出ている。
「そうであってほしいけどな・・・」
 ジタンは心臓を確認した。もちろんセフィロスの。
「・・・・・・・・・」
 神殿の広間に変な空気が漂った。しかしジタンはすぐに立ち上がった。
「・・・心臓は動いてない・・・たぶん死んでる。まあ・・・最初にオレの攻撃で心臓は貫いていたけ
ど・・・」
 ジタンは立ち上がったまま周りを少し確認してから、あっけにとられているティファに話しかけた。
エーコが召喚獣を使えることや、その召喚によってセフィロスが死んでしまったことにも驚いてるんだ
ろうなとジタンは悟った。
「なあティファ、クリスタル、取りに行こうぜ」
 顎に手をあてていたティファはやはりボーッとしていたのか、
「・・・・・・え?」
「クリスタルだ。後でこのセフィロスの死体はどうにかしておく」
「でっ・・・でも・・・。何かこのままだと気味悪いじゃない」
 セフィロスはうつ伏せに倒れている。ジタンが心臓の動きを確認する時は背中に耳をあててもよかっ
たのだが、さすがに嫌であったので下に手を潜り込ませたのだった。そのせいで少しセフィロスの血が
ジタンの手についている。
 近くには折れた正宗が落ちている。
「・・・・・・そうは言ってもなあ」

 と、その時だった。

 突然セフィロスの体が光りだした。黄緑色の明るい色である。その光は、セフィロスの全体を包み込
むようにしていた。
「なっ、何だこれっ!」
 ジタンはさらに気味が悪くなった。セフィロスの死体をどうにかしようとして考えてたら急に光がセ
フィロスの身体を包みだしたのだ。
「これ・・・何だろう・・・どこかで見たような・・・あっ、ライフストリーム・・・!?」
 これまで絶句していたエーコがティファに訊いた。
「ライフストリームって・・・?」
「どうかな・・・うまく説明できないけど・・・。この星に流れているエネルギーよ。そうね・・・人
間だったら、血液にあたるもの・・・かな?」
「へぇー」
「・・・待て、感心してる場合じゃないだろ」
 ジタンの口調はすでに落ち着いていた。どうやら、腹の傷は浅いらしく、血はもう出ていない。
「これは何だ・・・? 仮にそのライフストリームだとして、何なんだよ、これ」ジタンはティファに
強く問いかけた。「たぶんこいつは、邪神の関係者だ。それで、邪神が自分のアジトにでも連れ帰ろう
としてるのか?」
 その質問に、ティファは自信を持って答えた。
「いいえ。それはないわ。ライフストリームを操れる人間は・・・滅多にいないはず。邪神なら尚更よ。
これはさっきも言ったけど、星に循環してるエネルギーだもの」
 そうこうジタン達が話しているうちに、いつの間にかセフィロスの身体は消えていた。折れた正宗も
無くなっている。
「ふうん・・・。まあなんでそのライフストリームってのが来たのかはわからんけど、運が良かったっ
ていったら良かったな」ジタンは自分のてのひらを見た。いつのまにかセフィロスの血が消えており、
腹の刺し傷跡もいつの間にか治っている。
 ティファは愛想笑いを浮かべて言った。
「そうね」
 エーコが少し安心した顔でティファに話しかけた。
「ねえ、でも何で消えちゃったんだろ?」
 それはたぶん、と言ってティファは続けた。

「セフィロスは、"一人の人間として星に帰った"んだわ」

 ←第三章 集結−4  第三章 集結−6

inserted by FC2 system